それは彼が「アンバランス」だったからです
「テスト」(眉村卓)
(「まぼろしのペンフレンド」)角川文庫
優れた文才を持つ
文芸部部長の良作は、ある日、
謎の男たちに拉致される。
気がついたときに彼がいた場所は、
地球ではない、
別の次元の別の星だった。
彼の役割は、その星の住民に、
勉強を教えることだった。
ところが…。
ところが彼は、
「教える役目」に失格し、
地球に戻されてしまうのです。
順を追って説明しましょう。
まず、「その星」は、
文明の発達が頂点に達し、
人びとは働く必要がなくなり、
精神的思考能力的に
退化してきたのです。
このままでは何も考えなくなり、
いずれ滅んでしまう運命にあるのです。
そして「謎の男たち」は、
さらに別の次元・別の宇宙の人類であり、
「その星」を発見し、
その住人を救うために、
「教えるエキスパート」を
いろいろな星から探しだし、
「その星」の
再教育にあたっているのです。
良作は、文芸部部長として
詩や作文に優れた能力を
発揮していたため、
「表現する能力」を教えるために
採用(誘拐)されたのです。
では、良作はなぜ「失格」したのか?
それは彼が
「アンバランス」だったからです。
中学生でありながら、
学業そっちのけで創作に打ち込む。
自分を基準に考え、
他の部員の作業の遅れにいらだつ。
周囲とのコミュニケーションに
気を遣わない。
文芸的創作だけが突出し、
他の要素がすべて
おろそかになっていたのです。
その結果、彼は「教える役目」の
テストに不合格となったのです。
眉村卓のSF作品には、
何らかのメッセージが
込められています。
おそらく本作品においては、
一つの分野で優れていても、人として
当たり前のことができなければ
一人前としては認められませんよ、
という、少年少女に向けた「教訓」が
それなのだと考えられます。
でも現代社会を見たとき、
そうした考えは
時代遅れとなったような感があります。
卓球でも将棋・囲碁の世界でも、
いや多くの芸能文化の分野で、
十代の圧倒的な才能が
台頭してきています。
彼ら彼女らはおそらく、
いろいろな部分を犠牲にして
一つの才能を特化させたのでは
ないかと推察できます。
すべてのことを
人並みにできることも大切なのですが、
一芸を極めて
世界レベルに達することも
同様に価値のあることだと思います。
現代はすでにSFが想定した世界を
超えています。
(2019.4.20)