読書案内としての楽しみ方もできます。
「大人になるっておもしろい?」
(清水真砂子)岩波ジュニア新書

前回取り上げた本書。
実は別の楽しみ方があります。
読書案内です。
10代の少女に向かって、
大人になることの
本当の意味を問いかける中で、
さまざまな本とその一文が紹介され、
問いに対する解答を
模索しているのです。
第3信 一人でいるっていけないこと?
著者は自己との対話の
大切さを説く中で、
次の児童書を紹介しています。
「成長のほんの一部分だけが、
みんなの前と家族の前で起こる。
あとの大部分は
一人でいるときに起こる」
(「ベーグル・チームの作戦」
カニグズバーグ)
第10信 家族ってなんだろう?
「世界じゅうの
あらゆる人びとのなかで、
家族というものは、
自分がおぼつかない
努力をしているのを
一番みせたくない人々なのです」
(「思い出の青い丘」サトクリフ)
と、著者は、家族が
近くて遠い存在であることを
示唆しています。
その上でぎこちない家族の例として
いくつかの文学作品を提示しています。
よかれと思って子どもの
先へ先へと回って手を打つ母親と、
そんな母親に自分の思考のすべてを
吸い取られている
小学校4年生の少女の物語
(「そのぬくもりはきえない」岩瀬成子)
親が離婚したために
不幸になる子どもと同じくらい、
親が離婚しないために
不幸に耐えなければならない
子どももいることの問題提起
(「ふたりのロッテ」ケストナー)
第11信 世界は広く、そして人は
なんてゆたかなのだろう
広く世界を見渡し、いろいろな文化に
触れることの大切さについて
述べています。
そこで紹介されているのは、
「中国現代文学短編集」(金子わこ訳)
「はらぺこあおむし」(エリック・カール)
「きれいな絵なんかなかった」(ローベル)
「『いき』の構造」(九鬼周造)
と多彩です。
私などは、本を紹介されると
すぐ読みたくなる質ですので、
さっそくいくつかAmazonで
購入してしまいました。
巻末には、そのすべての図書の一覧が
ブックリストとして掲載されています。
その数50冊以上。
その多くが児童書と絵本です。
子ども向けだろ、と
軽視されがちな本の中にも、
人の生き方に
貴重なヒントを与える作品が、
これだけあるのです。
本書を手にした中学生高校生が、
ここから本の世界に
入っていくことができれば、
どんなに素晴らしいでしょう。
そうした観点からもお薦めの一冊です。
(2019.4.22)
