「かがみのもり」(大崎梢)

身近に十分あり得る「冒険ジュブナイル」。

「かがみのもり」(大崎梢)光文社文庫

中学校の新米教師・片野は、
担任する生徒・笹井と勝又から
不思議な話を聞く。
神社の森の洞窟の中に、
金色に輝くお宮と
狛犬に似た狼像があるのだという。
三人は探検に出かけるのだが、
そこで怪しい白装束の集団に
拉致されかけて…。

舞台が神社の森、
そして冒頭から謎の奥宮。
これは
少年少女向けファンタジーに違いない、
と思って読んでみると
まったく違っていました。
神秘的な要素は何一つ出てきません。
あえてジャンル分けするなら
冒険ジュブナイルといった
あたりでしょうか。

本作品の特徴としては、
「ジュブナイル」でありながら、
主人公が中学生2人ではなく、
その担任教師・片山という
大人であることがあげられます。
この片山の若々しい新任教師ぶりが
魅力的です。
懐が広く、行動力があり、
頼れる大人です。
子どもをひとりの人間として扱い、
対等に話を聞く誠実さに溢れています。
それでいて意識して
なれ合いを避けようとする
節度も持っているのです。
これなら中学生が読んでも主人公に
十分感情移入できるでしょう。

また、もう一つの特徴は、
近くの神社の山を探索するという
十分に現実的にあり得る
「冒険」であることです。
アイテムも自転車やバス、
略地図とコンパスといった
日常的なものばかりです。
秘境や異世界を探検するような
非現実的な「冒険」とは異なり、
中学生も「これならできる」と
得心するでしょう。

大人が読む分には
文句の付け所はいくつもあります。
終盤、事件が急展開した場面で、
片山が警察を呼ぶどころか
学校にも無断で単独行動に走った点は、
現実であれば懲戒ものです。
特に採用半年未満の時期ですので、
そのまま失職の危険性もあり、
めでたしめでたしで
終わることはできないでしょう。

また、どんな秘密結社かと思えば
正体はカルト教団。
近年の話題を取り上げたのでしょうが、
筋書きの底が浅くなった感じは
否めません。

そして表紙画から、
宮司の娘・ひろ香が笹井・勝又とともに
同級生男女3人組として
冒険に参入するものと
思い込んで読み進めると、
そうではありません。
あくまでも担任・片野を介しての
関わりで終わりますので、
物足りなさを感じます。

でも、そうした疵など、
本作品の魅力の前では
些細なものにしか過ぎません。
中学生が読む分にはいささかも
感動を妨げるものではありません。
もしかしたら身近に十分あり得る
「冒険ジュブナイル」。
中学生にお薦めです。

(2019.4.24)

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