「雲を愛する技術」(荒木健太郎)

専門的知識を一般読者にいかに伝えていくか?

「雲を愛する技術」(荒木健太郎)光文社新書

素晴らしい一冊に出会いました。
本書がベストセラーに
なっているのは当然です。
今までにない画期的な本だからです。

専門的知識を一般読者に
いかに伝えていくか?
これまでの専門書は、
難しい内容を堅苦しく
書き連ねたものでした。
また、専門的な内容を
わかりやすく伝えようとして砕けすぎ、
正確さや系統性を
すべて犠牲にしたような
入門書も横行していました。
本書はそうしたものとは一切異なり、
難しい内容を素人にもわかりやすく、
それでいて正確な知見に従い、
系統性を重視したものなのです。

画期的な点①
独特の執筆スタンス

そもそもこれまでは
「教えてやろう」という姿勢で
執筆された本が
ほとんどだったのではないかと
思うのですが、本書は
「こんなに楽しいんだけど、どう?」と
語りかけてくるような
スタンスなのです。
それもそのはず、筆者は雲を
「愛している」のですから。

画期的な点②
新書本とは思えぬ豊富な画像資料

雲の図鑑ならこれまでもありました。
でも、
従来の面白みに欠ける「図鑑」でもなく、
写真を並べただけの
「紙媒体版インスタグラム」でもなく、
筆者が「愛でている」雲たちの
写真集でもあるのです。
雲の一番いい表情を
捉えた画像ばかりです。
それでいて系統性を重視した
構成になっているから驚きです。

画期的な点③
気象事象を擬人化した素敵なイラスト

本書には実に多彩な
キャラクターが登場し、
イラストを彩っています。
パーセルくん、クラウドン、
たつのすけ、力士、…。
なぜか擬人化されると
わかりやすいし親近感がわくのです
(最近は擬人化流行りですが)。
冬の大雪についても、
「積雪3mの雪が6m四方の家の屋根に
積もっていることを考えると、
屋根全体では総勢324人の
小ぶりな力士がいることになります。」
屋根の上に300人以上の
関取が座っていると考えると、
いかに雪下ろしが
重要であるかが即座に理解できます。

画期的な点④
ネットと連動した資料提示

各章の扉にQRコードが付され、
YouTubeの動画資料へ
簡単に接続できるように
なっているのです。
ネットと連動するしくみなら、
電子書籍の方が
使いやすいのかも知れません。

これからこうした
自然科学の新書本が
次々と登場するのではないか。
そんな楽しい予感さえ感じさせます。
こうした本によって、
自然科学に興味を持つ若者が
増えてくれることを期待します。

(2019.5.10)

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