感じるのは当時の障碍者に対する世間の視線
「踊る一寸法師」(江戸川乱歩)
(「江戸川乱歩全集第3巻」)光文社文庫

曲芸団員の一寸法師の緑さんは
いつも仲間から
いじめられていた。
その日の宴の席でも飲めない酒を
無理に飲まされていた。
宴が盛り上がった頃、
緑さんは仲間から「美人獄門」の
隠し芸を強要される。
芸は成功したかに見えたが…。
江戸川乱歩の作品は
グロテスクなものが
少なくないのですが、
本作品はその中でも
最も醜悪なものの一つです。
障害者差別にあふれ、
陰湿ないじめが描かれ、
最後はスプラッター映画さながらの
狂気の場面で幕を閉じます。
そんな作品を取り上げる必要など
本当はないのでしょうが…。
本作品に限らず、
乱歩作品を読んで感じるのは
当時の障碍者に対する世間の視線です。
差別が当たり前であるかのように
描かれています。
本作品の中にも
「不具者」「怪物」といった
差別的な言葉が頻出します。
そもそも表題に使用されている
「一寸法師」という言葉自体、
差別用語です。
また、こうした障碍者を集めて
見世物(サーカス等を含む)に
していること自体も
現代では考えられないことなのですが、
おそらく当時は(調べると江戸時代から
存在したようですが)
当たり前だったのでしょう。
障害者の自立という側面も
あったのでしょうが、
差別の上に成り立った商売など
本末転倒です。
また、社会的に
隔絶させられていることも大問題です。
こうした障碍者差別の描写は、
乱歩のみではなく
横溝の作品にも多々見られます。
ミステリーというジャンルは、
本来世の中の暗部に着目する以上、
両者の作品に
そうした傾向が見られるのは当然です。
つまり、当時障碍者は
社会の底辺の暗闇に
押しやられていたのです。
こうした作品がなければ、
もしかしたらそうした「歴史」が
現在の私たちの知ることなく
忘れ去られていた可能性もあるのです。
良くも悪くも文学作品には
その当時の社会の空気が
しっかりと刻み込まれているのです。
それを読み取るのも
「本を読むこと」なのだと感じています。
さて、本作品のクライマックス
「美人獄門」とは、
女性を箱の中に押し込め、
数本の刀剣を差し込み、
その実、秘密の抜け道を通って
女性は無事に脱出するという
よくある大道芸です。
それがスプラッター場面と
化すのですから…。
本作品の発表は大正15年、
つまり昭和元年となる改元の年です。
大正から昭和への改元は、
このような暗い世相の中で
行われたのでしょう。
(2019.5.11)

【青空文庫】
「踊る一寸法師」(江戸川乱歩)