「最後の共和国」(石川達三)

ロボットの方が数段「人間」的

「最後の共和国」(石川達三)新潮文庫

西暦2026年、
世界は唯一の国家
「世界連邦共和国」に統一され、
民衆はユートピア的な
生活を送っていた。
その原動力となっていたのは
ロボットの導入であった。
政府は次の段階として
ロボットに「道徳構造」を
組み込む計画を始める…。

石川達三の作品としては
異色のSF近未来小説です。
作品の舞台背景を説明すると、
①4度の世界大戦を経て単一国家
 「世界連邦共和国」となっている。
②共和国憲法の重要な一項目は
 「人口制限法」であり、
 すべての女性は
 原則として3人まで
 子どもを産むことができるが、
 4人目以降は施設に収容される。
③享楽に明け暮れる
 民衆の間に自殺が広がっている。
④国民の労働時間は
 1日3時間となっている。
⑤ロボットが大量生産され、
 労働のほとんどを担当している。

という状況なのです。
そのロボットに「道徳構造」
つまり「心」としての回路を
組み込むのですから、
何となくストーリーの先が
見えてきます。

「心」を組み込まれたロボットが、
謀反を起こして
人間に反旗を翻す、という
結末を予想して読み進めると…、
決してそうではありませんでした。
「人間」に対して反乱を起こしたのは
「人間」でした。
つまりクーデターを起こして
世界政府を乗っ取った独裁者と、
それに反抗した
民衆の戦いが勃発するのです。

このときまでに人々は
ロボット教師から全世界が均一で
同等の学問を授かっていたため、
人類はきわめて無個性な
集団となっていたのです。
その場の流れにすべてが同調し、
理性をはたらかせる人間も
群れを統率する人間も
いない状況の中で
略奪・破壊・暴力が繰り広げられます。

ロボットがここでしたことは
「武装蜂起」ではなく
「サボタージュ」と「静観」に過ぎません。
世界の人口が激減した後に、
ロボットが新政府を樹立、
残った人間を豪州に幽閉、
新時代を始めるのです。
ロボットの方が数段理性的であり、
人間的です。

「ロボット」という言葉を
生み出したチャペック
名戯曲「ロボット」
つい連想してしまいますが、
石川版「ロボット」は
複雑で多様な問題を提起しています。
国家の在り方、人口政策の考え方、
軍隊の必要性、
人間にとっての道徳の意味、
人間の性の在り方、文化の意義、
多様な人間の必要性、…。

全編にわたって
ニュースや談話を中心に
構成されていて、
前半は
やや退屈に感じるかも知れません。
さらに1952年に発表された作品であり、
現代の視点からすると
滑稽な部分も多々あります。
そうした難点を持ちながらも、
多くのことを現代に問いかけています。
埋没させるには惜しい作品です。

※文庫本は
 昭和51年に出版されているのですが、
 昭和60年代にはすでに
 絶版となっていたようです。

(2019.5.20)

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