「ロボット」(チャペック)②

私たちの身のまわりはロボットだらけ

「ロボット」
(チャペック/千野栄一訳)岩波文庫

ロボット量産化が成功して10年。
「ロボットを人間に近づけて」
というヘレナの願いを受け、
ガル博士は密かに
ロボットに魂を植え付けていた。
一方、人間は動く必要がなくなり、
次第に退化する。
やがて、
ロボット反乱の報が入り…。

前回はチャペックの年代に
さかのぼって作品をとらえてみました。
でも、現代に引き寄せて考えても、
面白さは抜群です。
かなりの先見性を持った
作品であることは間違いありません。
私たちの現実世界でも、
ロボットたちが反乱を起こすのでは…、
と考えると空恐ろしくなります。

えっ、現実にはロボットは
いないじゃないかって?
いえいえ、私たちの身のまわりは
ロボットだらけです。

かつて
シュワルツェネッガー主演映画の
「トータル・リコール」のワンシーン、
主人公が乗り込んでいたタクシーには
運転手ロボットが
設置されていたのを記憶しています
(かなり人間臭いロボットでしたが)。
でも今や、自動運転の自動車が
実用段階に入っています。
つまり、ロボットが
組み込まれているのと同じです。

本作品(のセリフ中)に登場する
「女中ロボット」の仕事は、
自動食器洗浄機や自動掃除機ルンバが
既に行っています。
「売り子ロボット」は、
各種自動販売機が
既に飽和状態で存在しています。
「タイピストロボット」も、
音声認識ソフト付のパソコンが
既に登場しています。
現実世界はもはや
人間型ロボットを越え、
各種家電そのものをロボット化し、
広く行き渡らせているのです。

外に出るともっと顕著です。
交通機関、金融機関、すべて自動化です。

そしてこれからは
それら潜在化したロボットが
ネットで繋がっていくことになります。
現在はパソコン・スマホ以外の
ネット接続は限られていますが、
いずれ一般家電も
次々に接続されることでしょう。
そうした社会で、
目に見えない「ロボット」たちが
一斉に反乱を起こしたら
どうなるのか?
想像だにできません。

第二幕で人類を
全滅させたロボットたちも、
第三幕で黄昏をむかえます。
修復や生産を司る人類が
消滅したことにより、
彼らもまた絶滅の危機に
さらされるのです。
では、最後に生きのこるのは?

新人類創世のような終末で
幕を閉じる本作品。
現代に通じる問題提起が
ふんだんに盛り込まれていて、
決して色褪せていません。
ぜひご一読を。

(2019.5.21)

【青空文庫】
「RURーロッサム世界ロボット製作所」
(チャペック/大久保ゆう訳)
※別の訳者、別の邦題で
 青空文庫に収録されています。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA