一度も映像化されていない、眉村卓の傑作SF
「ねじれた町」(眉村卓)角川文庫
中学1年生の行夫が
引っ越してきたQ市は、
過去の時空と繋がっていたり
鬼や妖怪が出没したりする
「ねじれた町」だった。
Q市の伝統行事「鬼の日」に、
行夫は「鬼を産む側」でもなく
「家に籠もる側」でもなく、
「鬼と戦う側」を選択する…。
「ねらわれた学園」「なぞの転校生」で
おなじみの、
眉村卓のSFジュヴナイルです。
「子どもの読むもの」と侮ることなかれ。
面白いものはやっぱり面白いのです。
本作品の味わいどころ①
男女の黄金比率2:1
主人公・和田行夫は平凡な男子生徒、
行夫に関わってくる花巻千恵子は
積極的な女子生徒、もう一人、
行夫の味方になる太刀川克巳は
冷静沈着文武両道の男子生徒。
この男女2:1の黄金比率が
どのように物語を彩るのか、
ぜひ読んで確かめてください。
本作品の味わいどころ②
学園SFとは異なる趣
前記2作品のような
「学園が侵略されるのを防ぐ」といった
学園SFパターンではなく、
「市全体が侵略されていたのを救う」
という、一回りスケールの大きな
筋書きとなっています。
大人たちも巻き込んでの一大騒動に、
中学生の主人公たちが
どのように立ち回るのか、
ぜひ読んで確かめてください。
本作品の味わいどころ③
古いものとの戦い
SF作品は、未来の存在からの
侵略であることが多いのですが、
本作品はいわば「過去からの侵略」です。
血で血を洗うお家騒動や
領民を虐げてきた旧藩の歴史に
埋もれた怨念が、
Q市を支配してきたのです。
「よそ者」である転校生の行夫が、
この過去の怨念と
どう決着をつけるのか、
ぜひ読んで確かめてください。
本作品の味わいどころ④
立ちのぼる昭和の薫り
昭和49年発表の本作品、
もちろん情報端末もなく、
中学生がポストに手紙を投函するなど
「昭和」の色彩が濃厚です。
「令和」の時代の中学生が読むと
違和感を感じるかも知れませんが、
「昭和」の時代に
中学生だった大人が読むと
懐かしさいっぱいの風景です。
ぜひ読んで確かめてください。
と、「読んでみて確かめてください」を
連発しましたが、
当然すでに絶版となっています。
「ねらわれた学園」「なぞの転校生」は
何度も映像化されているのですが、
本作品は一度も
映像化されていないのも不思議です。
知られざる眉村卓の
傑作SFジュヴナイル、
古書を探してみてください。
※中学生の頃に読んだものを
40年ぶりに読み返しました。
やはり眉村卓のSFジュヴナイルは
面白い!
(2019.5.25)