由利・三津木の事件簿13
鍵を握る鸚鵡の言葉
「鸚鵡を飼う女」(横溝正史)
(「由利・三津木探偵小説集成2」)柏書房
「鸚鵡を飼う女」(横溝正史)
(「双仮面」)角川文庫
春の夜更け、
キリシタン坂を歩いていた
三津木俊助は、
死体の載った俥に出くわす。
その俥の横付けされていた
屋敷に踏み込むと、
そこにも死体が。
そしてその部屋には
大小様々の博多人形があり、
中国語の言葉を話す
鸚鵡がいた…。
車ではなく俥(人力車)です。
まだまだ人力車が現役だった時代の
昭和12年に発表された作品であり、
由利・三津木コンビ・シリーズの
一作です。
味わいどころはずばり、
鸚鵡・由利・俊助の三点です。
【事件簿13 「鸚鵡を飼う女」】
〔事件捜査〕
由利麟太郎…私立探偵。
三津木俊助…新日報社社会部記者。
等々力警部…警視庁警部。
〔事件関係者〕
里見
…俊助が夜道で出会った男。
人力車夫に騙されて
死体を俥で運んでいた。
川島邦子
…俊介と里見が踏み込んだ家に
住んでいた女性。死体で発見される。
遠藤為三
…川島邦子の旦那。
海坊主のような大男。
川島邦子の家の中で、
死体で発見された。
お近…川島邦子の家の婆や。
熊公…川島邦子の家の車夫。
中村扇紫
…歌舞伎役者。川島邦子殺しの
容疑者として拘束される。
宇佐美慎介
…密輸入団の一人で、警官を
射殺したとして逮捕されている。
仙公…密輸入団の一人。すでに死亡。
〔事件の経緯〕
①俊助が夜道で寺小姓の出で立ちの
異様な人物と遭遇。
②同夜、俊助が里見とともに
川島邦子と遠藤為三の死体を発見。
③逃走中の中村扇紫、
由利先生宅で逮捕。
④由利先生、犯行現場を視察中、
犯人逮捕。
本作品の味わいどころ①
当然事件の鍵を握る鸚鵡
言葉を話すという性質上、
鸚鵡はキーアイテム的存在として、
小説上に登場する機会の多い
鳥なのでしょう。
広く知られているところでは
「ビルマの竪琴」での
水島上等兵と小隊長との
メッセンジャー役、
ミステリでは佐藤春夫が
「オカアサン」で謎解きの素材として
登場させています。
横溝も短篇作品「物言わぬ鸚鵡の話」で
使っています。
本作品でも、被害者の女が飼っていた
鸚鵡の話す言葉が、当然のように
事件の鍵を握っているのです。
すべてが解決されたとき、
鸚鵡に込められた犯人の意図が
明らかになります。
「自己弁護」と「残忍な快感」という
犯罪心理が巧妙です。
本作品の味わいどころ②
ホームズを凌駕する由利
本作品に限らず、由利の推理は抜群です。
推理というよりはもはや想像力、いや、
霊感を発揮して
事件の真相を暴いたとでもいうような、
推理を超えた直感です。
これはホームズを
完全に凌駕しています。
戦前の横溝の作風は
本格探偵小説ではなく、
あくまでも変格。
ストーリー展開の面白さを
重視しているのですから
仕方ありません。
論理的な推理は
戦後の金田一まで持ち越しです。
それにしては、本作品の場合、
これまでのように
「獣人」やら「殺人鬼・真珠郎」やら
「蜘蛛三」やら
「ファントム・ウーマン」やらといった
化け物キャラが登場しません。
せいぜい密輸団「百足組」
(組員は二の腕にムカデの刺青を
している)が出てくるだけです
(直接対決はしない)。
やや大人しい雰囲気の作品なのですが、
その分、由利の神業的推理が光ります。
本作品の味わいどころ③
ワトソン役に徹する俊助
したがって、事件を
見事に解決するのは由利麟太郎です。
相棒の俊助は
しっかりワトソン役に回っています。
事件を発見するのは俊助ですが、
このとき重要参考人を見逃すとともに、
実は犯人に一杯食わされています。
そして事件はすぐ解決すると
高をくくってしまいます。
さらには珍しいことに由利から
「君も新聞記者なら、
もっといろいろなことに
注意していなければいけないね」と
たしなめられる一幕まであります。
完全に引き立て役にまわっている
三津木俊助の姿もまた
味わいぶかいものがあります。
面白いことに、由利が登場しない
「三津木・等々力警部コンビ」では、
三津木は明晰な頭脳を駆使して
事件を解決に導く
(「猫と蝋人形」「白蠟少年」等)のですが、
由利と一緒のときはなぜか
頭の回転が鈍くなってしまうようです。
トリック的なものがなく、
読み手が謎解きに参加する要素も
少ない作品なのですが、
こうした味わいどころに加え、
冤罪を受けた弟を救出するための
証拠を探しだすという
情緒たっぷりの筋書き、
歌舞伎に詳しい横溝らしい
設定の数々など、短篇ながらも
味わい深い作品となっています。
金田一耕助シリーズが順調に
新角川文庫で復刊しているのですが、
由利・三津木ものについては
角川文庫は今ひとつ
熱心ではありません。
現在読むのであれば柏書房刊
「由利・三津木探偵小説集成2」もしくは
電子書籍しかないのが惜しまれます。
(2019.5.26)
〔「由利・三津木探偵小説集成2」〕
夜光虫
首吊船
薔薇と鬱金香
焙烙の刑
幻の女
鸚鵡を飼う女
花髑髏
迷路の三人
付録:夜光虫(未発表版)
編者解説(日下三造)
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