描かれているのは、人と人との繋がりの在り方
「雪と珊瑚と」(梨木香歩)角川文庫
生まれたばかりの
赤ん坊・雪を抱えている
21歳シングルマザーの珊瑚。
彼女は
「赤ちゃん、お預かりします」の
張り紙の主・くららとの
出会いをきっかけに、
果敢に人生を切り拓いていく…。
読み終わりました。
ページをめくる手が
早くなるのを押さえながら、
今読み終わりました。
梨木香歩の文学は、
また一つ次のステージへと
移行しています。
梨木作品を初めて読む方にとっては、
本作品は下手をすると
カフェレストラン開店How-To本か、
ありがちなシングルマザー応援本と
受け取られかねない
一面を持っています。
しかし、ここで描かれているのは、
「人と人との繋がり」の
在り方なのだと考えます。
珊瑚は幼い頃、
母子二人の家庭でありながらも、
母親の養育放棄により
高校中退を余儀なくされます。
自らもシングルマザーとなった珊瑚は、
「母と自分の関係」を
「自分と娘の関係」に重ね合わせ、
苦悶します。
しかし、カフェ開店の際の
「あんたの保証ならできる」という
母親の一言や、
夜泣きをする娘に
辛く当たってしまったことを通して、
母親との繋がりを
取り戻そうとしている自分に
気付いていくのです。
珊瑚は、くららだけでなく、
彼女の甥で
有機農場を経営している貴行、
アパートの隣に住む友人那美、
勤務先のパン屋の桜井夫妻、
そこで知り合った由岐など、
さまざまな人たちの援助を得て、
自分が一人ではないことにも
気付きます。
何かを成し遂げようとする強い意思は、
それがそのまま
他と繋がる原動力となり得るのです。
珊瑚、
そして読み手である私たちも、
「人は一人で生きているのではない」と
気付くことができるのです。
「繋がり」は難しいものであることも、
作者はしっかり示しています。
「自分たちが
自己犠牲を払うことによって
他者が喜ぶ、
それを自分の喜びとすることで
気持ちよくなるのか、
優越欲求が満たされて、
気持ちよくなるのか、
或いはその両者は
同じ一つのものなのか」。
解答は示されていません。
これは私たちが日々の生活の中で
常に自ら問いかけねばならない
ものかも知れません。
また、周囲はもちろん
善意の「繋がり」ばかりではありません。
悪意を持って
繋がってくる人間もいるのです。
それもまた「繋がり」の別の側面であり、
切り離して考えることのできない
ものなのでしょう。
大人の女性にお薦めの一冊です。
(2019.5.27)