「黒手組」(江戸川乱歩)

本作品で「明智小五郎像」が確定した

「黒手組」(江戸川乱歩)
(「江戸川乱歩全集第1巻」)光文社文庫

「黒手組」と名乗る賊徒の一団が
都下で犯罪を繰り返していた。
「私」の伯父がその被害に遭い、
身代金一万円を渡したものの、
誘拐された娘・富美子が戻らない。
「私」は富美子捜索の件を、
友人の私立探偵・明智小五郎に
依頼するが…。

「D坂の殺人事件」「心理試験」に続く、
明智小五郎ものの第3作です。
ただし事件の時系列としては
「心理試験」よりも
早いものと思われます。
犯罪集団に明智小五郎がたった一人で
挑む物語と思いきや…、
物語は意外な方向に進展します。

本作品の味わいどころ①
頭脳明晰な明智小五郎

本作品の肝は、
冒頭に提示される暗号文です。
不自然な文体である以上、
暗号文であることは明白なのですが、
隠されている文言は一向わかりません。
その難解な暗号を見事に解く
明智小五郎の明晰な頭脳こそ、
本作品の味わいどころです。

本作品の味わいどころ②
人情家の明智小五郎

本作品のもう一つの目玉は、
犯人が現場から足跡を消し去った
トリックです。
明智は考えられる可能性を
6点だけしかないことを挙げ、
それを消去法で吟味し、
結論を見いだします。
しかし、そこから導いた結論を
そのまま処理せず、機知を働かせ、
八方丸く収まるように仕向けます。
弱者を思いやる明智小五郎の
人間味あふれる温情こそ、
本作品の味わいどころです。

本作品の味わいどころ③
ロマンチストな明智小五郎

依頼主(「私」の伯父)には
真相を一切話さず、
しかし「私」には
すべてを打ち明ける明智小五郎。
あえて犯罪として立件せず、
社会的弱者の自立に力を貸す。
そして
「人生は面白いね。
 この俺が今日は二組の恋人の
 月下氷人を勤めた訳だからね」

と飄々と語ります。
それとなく自分に酔いしれる
明智小五郎のロマンチストぶりこそ、
本作品の味わいどころです。

前2作では、
切れ味抜群の推理力だけが
目立つ形でしたが、
新しい魅力あふれる人物としての
明智小五郎です。
そしてそれらは次作以降も見られる
明智小五郎の人柄として
定着していくのです。
もしかしたら本作品で
乱歩の「明智小五郎像」が
確定したのかも知れません。

乱歩自身の自作解説では
「不出来」「失敗」と辛口評価なのですが、
どうしてどうして
味わい深い作品となっているのです。
同じ暗号解きの「二銭銅貨」との
読み比べも面白いと思います。

(2019.6.2)

pixel2013によるPixabayからの画像

【青空文庫】
「黒手組」(江戸川乱歩)

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