短編小説はこうでなくては
「第三者」
(サキ/妹尾韶夫訳)青空文庫
グラドウィツとズネームは、
ある山の所有権をめぐり、
鉄砲を片手にお互いの動きを
監視し合っていた。
敵どうしの二人が
山でばったり遭遇したそのとき、
強風が吹き、
巨木が倒れ込んでくる。
お互いに身動きできなくなった
二人は…。
サキ作品が青空文庫化
されていないかどうかみてみたら、
本作一作だけが登録されていました。
ホラー、コントと続き、本作は何か?
敵どうしの二人が大木の下敷きになり、
身動きできない。何が起こるか?
予想通り、幼稚な口喧嘩が始まります。
「ここで勝負をつけるなら、
第三者の邪魔者がこなくていい。
グラドウィツの馬鹿っ!
早く死んでしまえ!」
「ズネームの馬鹿!
早く死んでしまえ!泥棒!」
次に何が起こるか?
罵り合っても無駄だと気付くと、
お互いに少しだけ内省的になります。
「どうだい。
この酒を一口飲ましてやろうか。
今夜のうちに、お前かおれの
どちらかが死ぬにしても、
今の中別れに一杯飲んだらどうだ。」
そして何が起こるか?
人間的な成長がみられるのです。
「おれは考えを変えた。
おれの部下がさきにきたら、
まずお客様として、
お前からさきに助けさして、
おれはあとで助けてもらうつもりだ。」
生死に関わるトラブルは、
えてして人間に
俯瞰的な視点を与えるものです。
目先の小さな利害にこだわって
憎悪を募らせながら生活するより、
一歩高い見地から見渡して、
お互いの利益を追求する方が
幸福に暮らすことができる。
長年敵対し合ってきた
グラドウィツとズネームは、
そのことにようやく気付いたのです。
めでたし、めでたし。
サキ作品、ここに来てようやく
O.ヘンリー並みの人情作品登場。
やはり短編小説はこうでなくては。
と思ったのも一瞬、
続きがまだありました。
待てど暮らせど
誰も救助にやってきません。
そのうち誰かが近寄ってくる
足音が聞こえます。
「一生懸命に走っている。
元気のいいやつだ。」
「誰だい?」
「狼!」
作品名の「第三者」、
罵り合いでのセリフ
「第三者の邪魔者がこなくていい」は、
ここにつながっていたのでした。
人情話と思えば、
なんとブラックユーモア。
やはり短編小説はこうでなくては。
さて、このサキ、
こうしたブラックな作品が多いためか、
日本ではO.ヘンリーほどには
浸透していないのが残念なところです。
作品集も、文庫本では
新潮文庫版が流通しているのみです。
また、単行本では2015年に八月舎から
「分析と対訳 開いた窓―サキ短編集」が
刊行されましたが、いつまで
流通するのか心許ない限りです。
なお、電子書籍であれば
ちくま文庫から出されている
「ザ・ベスト・オブ・サキ」が
2冊で全86篇と、
最も多く読めるものとなっています。
紙媒体で復刊するのを待って
いるのですが、難しいのでしょう。
(2019.6.14)
【青空文庫】
「第三者」(サキ)
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