「カンタヴィルの幽霊」(ワイルド)①

イギリスの伝統文化とアメリカ合理主義の対立

「カンタヴィルの幽霊」
(ワイルド/小野協一訳)
(「百年文庫084 幽」)ポプラ社

ロンドン郊外の
いわく付きのカンタヴィル屋敷を
アメリカ公使が買い取る。だが、
その屋敷には300年にわたって
幽霊が住みついているという。
一家が入居したその次の夜、
すさまじい形相の
老人の幽霊が現れ…。

ワイルドといえば
「ドリアン・グレイの肖像」が有名であり、
ホラー小説といっていいほどの
スリルとサスペンスがありました。
本作品はタイトルから
「幽霊」の文字が入っています。
さぞかし恐怖に満ちているのかと思い
読んでみると…
いきなり笑いに包まれます。

現れた幽霊は手首と足首に
重そうな鎖をぶら下げ、
それをぎしぎしいわせて
登場するのですが、
主人のオーティス氏は
「その鎖には油をささんといけませんな。
それで
タマニー・ライジング・サン潤滑油の
小瓶をお持ちしましたよ。」と
まったく相手にせず、
さっさと寝床に戻ります。
気味の悪い緑色の光を放ちながら
なおも廊下を闊歩すると、
双子の息子に枕を投げつけられる始末。
彼らは幽霊など
ものともしていないのです。

信じていないのではなく、
怖れていない。
この点が重要です。
彼らは幽霊の存在を認めながら、
極めて合理的効率的に
対処しているのです。

それが具体的な商品名を
挙げているものですから笑いを誘います。
「タマニー・ライジング・サン潤滑油」、
さしずめタマニー社「日の出オイル」
というところでしょうか。
幽霊は自ら使用して
その優秀さに驚いています。
決して落ちないといわれていた
カーペットの血糊のあとには
「ピンカートン社製抜群染み抜き
+模範洗剤」を使って見事に脱色に成功。
うめき声を上げて現れた幽霊には
「だいぶお加減が悪いようね」といって
「ドベル博士の水薬」を差し出します。
不都合が生じても
すべて物質で解決を図る。
極めてアメリカ的な姿勢です。

一方、幽霊は自らの存在を守ろうと
必死になります。
彼は、アメリカの建国よりも昔の
300年前からカンタヴィル屋敷に
住みついている、「伝統的存在」です。
つまり伝統と歴史を重んじる
イギリス文化の象徴とも考えられます。
しかし、理論的思考の一家に
なすすべもなく敗退するのです。

してみると本作品は、
イギリスの伝統文化と
アメリカ合理主義の対立と
捉えることが可能です。
その状況を告発しようとしたのか、
単に揶揄しただけなのか、
作者の意図は不明ですが。

(2019.6.18)

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