小学生の女の子の成長を、男の子の目線で綴っている
「ミカ!」(伊藤たかみ)文春文庫
ユウスケには、
双子の妹・ミカがいる。
ユウスケは温和しくて優しいが、
ミカは勝ち気で喧嘩っ早い、
性格の違う兄妹。
二人はある日、近所の団地の
誰も住んでいない部屋のベランダで、
奇妙な生物を見つけ、
オトトイと名付ける…。
「オトトイ」はどんな生物か?
毛だらけのサツマイモみたいで、
キウイの実しか食べない。
どこが頭でどこがお腹なのか不明。
ギーギーと変な声で鳴く。
まさに奇妙な生物です。
しかし本作品のテーマは、
兄妹と奇妙な生きものとの
交流ではありません。
筋書きの重要な部分には
絡んでこないのです。
兄妹の家庭環境はやや複雑です。
両親が離婚、姉は母親と、
二人は父親と暮らすことになります。
それ以外に大きな事件は起きません。
小学校6年生の日常が
淡々と描かれているだけです。
読みどころはもちろん
ミカの成長物語です。
ミカは「女の子」として扱われることを
極端に嫌っていました。
以前は誰もミカに対して
遠慮していなかったのですが、
次第に周囲の見方が
変わってくるのです。
ドッジボールも
「最近はみんな本気で
やってくれてへんのわかるもん。
アタシが女やから」。
そうしたミカの意識とは別に、
彼女は少しずつ変化していくのです。
それに気づいているのは
ユウスケです。
「ぼくとおなじシャンプーを使って、
ぼくとおなじ洗剤で
洗った服を着ているのに、
匂いはぼくとちがって
女の子の匂いがしていた。
いつのまにそうなったんだろう?」
このように、ユウスケはミカを
温かく見守っているのですが、
決して大人っぽく
考えたり振る舞ったり
しているのではありません。
ユウスケはどこまでも
ミカとおなじ
小学校6年生の子どもなのです。
小学生の女の子・ミカの成長を、
おなじ年齢の男の子・ユウスケの
目線で綴っているのが
本作品の特徴なのです。
さて、オトトイの役割は何か?
キウイの実以上に
この生きものが好むのが「涙」でした。
二人の涙を吸収して
大きくなるとともに、
二人は気づかぬうちに
気持ちが晴れやかになっていくのです。
涙を昨日の向こう
(一昨日・オトトイ)に追いやって、
明るく明日を迎える。
ミカが適当に
名前を付けた設定なのですが、
そこには作者のそうした意図が
含まれているのでしょう。
中学校に薦めたい作品です。
異性に関心の芽生え始める1年生が
ちょうどいいかもしれません。
(2019.6.24)