「大晦日の夜の冒険」(ホフマン)

「影を売り渡した男」に「鏡像を失くした男」

「大晦日の夜の冒険」
(ホフマン/大島かおり訳)
(「砂男/クレスペル顧問官」)
 光文社古典新訳文庫

大晦日の夜に酒場に
出向いた「ぼく」は、
小男とのっぽの二人組に出会う。
二人は諍いをはじめ、
のっぽが怒って
飛び出していった。
のっぽは影を売り渡した
シュレミールであり、
小男は胸像を失った
シュピークヘルであった…。

昨日から取り上げているホフマン
3篇目です。
本作品もホラー要素がありますが、
暗くはありません。
むしろユーモアに富んでいます。

のっぽの男・シュレミールは
自分の影を売り渡した男であり、
彼の姿は足下に影を
落としていないのです。
実はこのキャラクターは
シャミッソーという作家の
「ペーター・シュレミールの
不思議な冒険」の主人公そのものであり、
ホフマンが借用して
登場させたものです。
影を失ったために
人生の不幸を嘗め尽くしたのですが、
偶然にも一歩で七里の距離を飛べる
魔法の靴を手に入れ、
自然研究家となって
世界を旅していた途中だったのです。

そのシュレミールのキャラクターに
触発されて創りあげたのが
小男・シュピークヘルなのでしょう。
彼は妻子がありながら
美貌の小悪魔・ジュリエッタに
現を抜かし、彼女の求めるままに
自分の鏡像を差し出したのです。
その末路はやはりシュレミールと同様、
ろくなことにはなりません。
危うく妻子を手にかける一歩手前で
我に返ります。
しかし妻に諭され、
自分の鏡像を取り返すまでは
家に帰られない仕儀となるのです。

この二人が道連れとなって
「シュピークヘルが
相手の必要とする影を、
シュレミールがそのかわりに
鏡像を提供し合おうと決めた」と
いうのですから笑えます。
うまくいかないに決まっています。

ホフマンは現実と虚構が入り交じった
不思議な作品を数多く書き上げました。
そして奇々怪々なキャラクターを
多数産みだしています。
本作品では「影を売り渡した男」に
「鏡像を失くした男」、
「砂男」では「砂男コッペリウス」と
「自動人形オリンピア」、
「クレスペル顧問官」では
「奇人クレスペル」と
「ヴァイオリンの化身のような
アントーニエ」、
創造性が豊かだったのでしょう。

しかし彼は難病脊椎カリエスに冒され、
44歳の若さでこの世を去ります。
裁判官と作家の二重生活に加え、
音楽家、画家と
あまたの才能を持ちながら
駆け足のように
現世を駆け抜けていったホフマン。
光文社古典新訳文庫から本書も含めて
3冊刊行されているのは嬉しい限りです。

(2019.7.2)

StockSnapによるPixabayからの画像

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