中学校1年生までに出会うべき作品
「十五少年漂流記」
(ヴェルヌ/石川湧訳)角川文庫

前回取り上げた本作品、
私は小学生の時に初読して以来、
10年に1回くらいの割合で
本作品を読み返しています。
ところが、大人になってから読むと
子どものときとは
どこか受ける印象が違うのです。
その理由として「うまくいきすぎる
サバイバル生活」という視点で
前回書きました。
もう一つ考えられるのは、
「競合書の多さ」という点です。
本作品以後に書かれた「漂流もの」は、
古今東西たくさんありますから。
競合書その1:
デフォー「ロビンソン漂流記」
こちらは本作品以前の成立であり、
漂流もののさきがけ、
いやバイブルといってもいいでしょう。
ヴェルヌもこの作品を
相当意識していたと思われます。
本作品には至るところで
「ロビンソン漂流記では…」という
くだりが見られます。
大人の視点で読むと、
どうしてもロビンソンの方に
軍配が上がってしまいます。
ロビンソンの方が
困難の度合いが大きく、
サバイバル生活のレベルも高いのです。
「グループ漂流記」vs「ソロ漂流記」、
後者の勝利と思われます。
競合書その2:
須川邦彦「無人島に生きる十六人」
こちらは実話をもとに、
事実を忠実に描いた作品です。
創作ではなくノンフィクションですから
リアル度が違います。
これを読んでしまうと、本書はいかにも
ご都合主義的なところが
目についてしまい、興奮と感動が
今ひとつとなってしまうのです。
「十五少年漂流記」vs「十六中年漂流記」、
これも後者の勝ちでしょう。
競合書その3:
ゴールディング「蠅の王」
どろどろしていて
読むと後味の悪い思いのする作品です。
その原因は少年どうしの
殺し合いが始まってしまうことです。
しかし、子どもたちとはいえ、
エゴとエゴがぶつかれば
こうなることの方が自然かも知れないと
つい思ってしまいます。
「ピュア漂流記」vs「ブラック漂流記」、
こちらも後者が有利です。
これらの違いは、
あくまでも「子ども向け」に書かれた
本作品と、
ある程度「大人向け」に書かれたものとの
違いではあります。
だからこそ、本作品は子どものうちに、
少なくとも中学校1年生までに、
出会うべき作品だと思うのです。
そしてその後に
他の作品との出会いを果たすのが
正しい順序といえるでしょう。
まだ読んでいない中学校1年生に、
本作品を
こう言って薦めたいと思います。
「今が一番感動する時期だから」と。
(2019.7.21)

※取り上げた角川文庫版は、
現在絶版のようです。
次の文庫本が入手可能です。
(2019年7月現在)