問題は「独り身で迎える老後」
「あの家に暮らす四人の女」
(三浦しをん)中公文庫

杉並にある古びた洋館に
四人の女が暮らしている。
父を知らない佐知と
気ままな母親・鶴代、
佐知の友人の雪乃、
その後輩の多恵美である。
ある日、
その家の「開かずの間」を、
雪乃は開けてみる。
その部屋にあった
古い桐箱の中には…。
古い桐箱の中にあったのは、
干からびた男性のミイラ!
のように見えた河童のミイラ!
のように見えた河童のつくりもの!
でした(この河童が終末では
重要なはたらきをするのですが、
それについては
ぜひ読んで確かめて下さい)。
三浦しをんの描いた本作品は全編に
笑いの種が仕込まれている、極上の
エンターテインメント文学なのです。
そうした娯楽作品としての一面は、
読んでいただければ
すぐに感じられるものです。
しかし、読み終えた後に
考えてしまうことがありました。
そもそもなぜ「女四人」なのか?
鶴代は佐知を生んだ後、
すぐに夫を追い出して以来独身、
佐知は結婚の機会に恵まれず、
まもなく40歳になるも独身。
雪乃も佐知と同年齢で独身。
20代の多恵美はともかくとして、
3人ともよき伴侶を
見つけられないでいるのです。
それだけではなく、
この家の「守衛小屋」に住む
山田老人(男性)も80歳で独身なのです。
独身を通す生き方は、
これからは珍しいものでは
なくなってくるでしょう。
問題は
「独り身で迎える老後」ということです。
山田老人は、
80歳でありながらこの家の
縁の下の力持ち的存在です。
その一方で
彼が風邪を引いて寝込んだとき、
佐知が様子を見に来たおかげで
助かっています。
お嬢様育ちの鶴代(70代)は、
この家の精神的支柱でありながらも、
多くのことを
佐知と同居人に頼っています。
佐知はこの家の大黒柱でありながら、
収入は決して多くありません。
雪乃はこの家のやっかいになりながら、
佐知のよき相談相手として
機能しています。
多恵美はみんなに
面倒を見てもらっているようで、
この家を明るくしてくれる存在です。
5人がお互いに誰かを支えながら
誰かに支えられているのです。
これからの時代の
「老いて後の生活」とは、
血縁関係だけではない、
このような同居関係が
主流になってくるのかも知れません。
価値観や生活様式を
すべて統一させるのではなく、
お互いの自由を尊重しながら
上手に折り合いをつけていく。
一方的な介護・依存関係ではなく、
お互いに足りない部分を
補完し合っていく。
そんな新しい「関係」を、
本作品は提示しています。
さて、自分の老後は?
連れ合いが先に逝ってしまったとき、
子に頼らずにこんなシェアハウス的な
関係を築けるか?
男にはどうも難しそうです。
※本作品は、2015年の
谷崎潤一郎没後50年を記念して、
中央公論社が現代作家に依頼した
オマージュ作品の一つです。
一言で言えば現代版「細雪」なのです。
その側面については次回に。
(2019.7.31)

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