実は中学生に薦めることを躊躇しています。
「ミラクル・ファミリー」
(柏葉幸子)講談社文庫
年に一度、
春の川辺にやってくる
緑の髪の女の人。
真夜中にだけ開館する秘密の図書館。
鬼子母神伝説がささやかれる、
ザクロの木のある保育園。
父さんが聞かせてくれた昔話は
どれも不思議で暖かく、
そして秘密の匂いがした…。
前回、本書について、
「絆というものを
改めて確かめさせてくれる
9つの家族像です。
中学生にも、そして大人にも
ぜひ薦めたい一冊です。」と書きました。
実は中学生に薦めることを
躊躇しています。
現実には、本書に描かれているのとは
対照的な「家族」を持つ子どもたちが
あまりにも多いからです。
「3組に1組は離婚する」という
統計調査があるようですが、
私の在籍する学校も
それに近いものがあります。
なにも父母が
両方揃っている必要があるとは
言いません。
いろいろな家族の形があっていいし、
そうならざるを得ない
事情があることもよくわかります。
母子家庭父子家庭であっても
幸せな家族は
世の中に数多あるでしょう。
しかし…、あまりにも多いのです。
愛情に飢えている子どもが。
母子家庭に育ち、
食事の面倒は祖母が行っているものの、
それをほとんど食べず、
三色をコンビニにたより、
不健康な体型になってしまった子ども。
母親が再婚し、
新しい夫との間に子どもができ、
幼児帰りしてしまった子ども。
親の離婚に伴い、
すべてのことに意義を見いだせずに
不登校になってしまった子ども。
父親が愛人とともの失踪したために、
拒食症になってしまった子ども。
片田舎の町でありながら、
十分な愛情に満たされない
子どもたちが
あまりにも多いのです。
その子どもたちが本書を読んだとき、
どんな感想を持つか?
本書に描かれている
幸せな家族像を羨み、
現実のやりきれなさを
なお一層感じてしまうのではないか。
本書で起こる「小さな奇跡」が
自分の身の上に起こらないことを嘆き、
世の中にいらだちを
覚えるのではないか。
そんな不安を払拭できないのです。
いや、
やはり読んで欲しいと切に願います。
家族の誰かを失った子どもたちが、
今いる家族の確かな愛情に
気付くきっかけとするために。
温かい家族のモデルを
失いつつある子どもたちが、
将来築き上げる家族像を
明るく描くために。
絆が切れて
人生に迷っている子どもたちが、
このあとの人生で誰かとしっかり
繋がりを創り上げるために。
「愛情に満ちた家庭」が
決して「ミラクル」なものでは
ないことを願って。
(2019.8.5)