「ころべばいいのに」(ヨシタケシンスケ)

テーマは「怒りとのつきあい方」

「ころべばいいのに」
(ヨシタケシンスケ)ブロンズ新社

自分をいやな気持ちにさせる
周囲の人たちに対して
「いしにつまずいて
ころべばいいのに」と
考える「わたし」。
最初は嫌いな人に対する
復讐の仕方を考えていた
「わたし」だが、
思考を巡らせるうちに、
自分自身と向き合っていく…。

ヨシタケシンスケの人気シリーズ
「発想えほん」の最新刊です。
「このあとどうしちゃおう」を読んで、
すぐにファンになってしまいました。
本作品も「あるある」という共感、
「なるほど」という気付き、
「そうだったのか」という発見に富んだ、
子どものみならず大人にも
読み応え十分な
「えほん」となっています。
テーマは「怒りとのつきあい方」
といったところでしょうか。

まず1~3頁で、
「わたし」は自分の「怒り」と
向き合っています。
そして「怒り」を晴らす方法としての
「復讐」を考えます。
ここで終わってしまう人間は、
いつまでたっても
「怒り」を解消させることが
できないままなのです。
次に4~6頁で、
「怒り」の解消のための思考実験から
具体的方法まで
「わたし」は考え方を広げていきます。

しかし7頁では、
それでも解決できない「怒り」に
向き合っています。
その上で8~10頁で、
それを冷静に分析し、
解決への糸口としています。
そして11~14頁では、その対処法を
前向きに検討しているのです。

続く15~17頁では、「わたし」の視線は
自己の内側から外側へと向かい、
世の中のみんなが、それも大人までも
そのような思いを抱いていることに、
「わたし」は気付いていくのです。

さらに18~22頁では、
自分の嫌いな人に対して、
「不快な行為の源」を、
それを行う「人間」と切り離し、
それらを悪魔のように見立てて、
「怒り」の向かう先を
コントロールしようとしています。
自分を不快にさせるのはその人ではなく
「別の何か(=アイツ)が
そうさせている」という発想によって、
他者に対する「怒り」の多くは
消えてしまっています。
23~26頁では、
「アイツ」を押さえ込むための方法を
思考しているのです。
それで終わらず27~29頁では、
それが絶対ではないことに気付き、
このあとも思考を続けることの
大切さに思い至るのです。

こんなふうに
考えることができるのなら、
私たちが身のまわりで感じる
「怒り」の多くは自分で
コントロールできるようになるのでは
ないかと思うのです。

些細なことがトラブルに発展するのは
何も子どもたちに
限ったことではありません。
先日も見ず知らずの人と口論になり、
傘で相手の顔を刺して失明させるという
痛ましい事件がありました。
被害者・加害者はそれぞれ47歳・53歳で、
どちらも分別ある社会人です。
子どもたちに薦める前に、
私たち大人がまずはじっくり
読むべきなのかも知れません。

(2019.8.8)

Gerd AltmannによるPixabayからの画像

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