ネットで事件の資料を探していて驚きました
「対馬丸」(大城立裕)講談社文庫
昨日取り上げた「対馬丸」。
巻末の「遭難学童名簿」を見ると、
最も多いのは
9歳~10歳の子どもたちです。
小学校3~4年生です。
そうした子どもたちが
深夜の海に投げ出される
具体的な姿を思い描いたとき、
この撃沈事件の悲惨さが
胸に迫ってきます。
さて、もっと深く
対馬丸撃沈事件について
知りたいと思い、
資料をネットで探していて驚きました。
旧海軍関係者の方が、
この対馬丸撃沈事件に対し、
軍の行動に理解を示し、
擁護している記事があったからです。
以下は、
その記事を読んでの私の感想です。
驚いたことの一点目は、
7万人もの非戦闘員に
戦火を逃れさせた疎開事業の功績に
触れられていないのは片手落ちである、
そしてその中で対馬丸撃沈は
唯一の不幸である、という主張です。
沖縄県民を戦争に巻き込んでおいて
疎開事業の功績を言い張るのは、
本末転倒ではないでしょうか。
また、7万人が助かったから、
700人の子どもたちが遭難したのは
仕方がなかったとでも
言うのでしょうか。
驚いたことの二点目は、
老朽輸送船に1700人もの人間を
詰め込んだことについて、
同等の船に兵士3000人あまりを
輸送した事実を引き合いに出し、
子どもや弱者に「配慮した結果」と
言い切っていることです。
驚いたことの三点目は、
被弾した対馬丸を
護衛艦が見捨てた事実について、
翌朝救難部隊の来援を待った方が
実効性が高いと判断した、と
正当化していることです。
あれだけ事実が隠された
対馬丸撃沈事件の資料が、
どこからか見つかったのでしょうか。
単なる推測にすぎないのではないかと
思うのです。
また、それ以前に、
救助や避難の計画が白紙の状態のまま、
危険な水域に出航したことの
弁護にはならないと思うし、
沖縄を戦場にしたことの
言い訳にはならないと思うのです。
この軍関係者の方は、
疎開の必要性と
護衛艦の行動の正当性を訴えています。
ただしそれは、
沖縄戦が絶対に避けられない、
もしくは必要なものであったという
前提に立っての意見だと思うのです。
そもそもの出発点が違いすぎます。
私はいろいろな見方や考え方が
あっていいと思っています。
この方も、
やむにやまれぬお気持ちから
そのような見解を
発表されたと理解します。
言論の自由が認められている
私たちの社会では、
多様な意見が存在して当然です。
むしろ、
対馬丸撃沈事件をネットで調べても、
そうした軍関係者の
見解を載せたページが検索され、
事件の悲惨さを訴える記事が
なかなか見つからないことに
やるせなさを感じてしまいます。
私たちはもっともっと
戦争について関心を持ち、
世の中でどのような意見や主張が
なされているのかについて、
アンテナを高くしていかなくては
ならないのだと思います。
もう一度本書に立ち戻ります。
本書は作者大城立裕氏が
隠匿された対馬丸撃沈事件を
丹念に掘り起こし、
関係者の証言をまとめ、
事実を積み重ねた渾身の作品です。
戦争の悲劇を
後世に伝えることのできる良書が、
広く世間に認知されることを
願ってやみません。
(2019.8.13)