この5編はどこでどう繋がってくるのか?
「光の帝国 常野物語」
(恩田陸)集英社文庫
東北のとある地方にある
「常野」から来た人々は、
みななんらかの「力」を持っていた。
しかし「常に野に在れ」の
伝えを守り、権力を持たず、
ひっそりと生きてきた。
戦時中、軍はその「力」に目を付け、
彼らを密かに連れ去っていた…。
面白かったです。
頁をめくる手が止まりませんでした。
「不思議な力を持った一族」と
聞いただけで、
何か心がときめいてしまいます。
この手のSFが、私は大好きです。
古くは筒井康隆「七瀬ふたたび」、
最近では川端裕人「雲の王」、
その他SFを探せば
いくつも見つかるでしょう。
本書がそれらと異なるのは、
連作短編集であること、
その一族の謎が
ほとんど解明されないこと、
その一族と敵対するものの存在が
明らかにならないこと、なのです。
何かが起きそうなのですが、
核心まで迫らないまま
物語は終わってしまいます。
とりあえず10編の概略は
以下の通りです。
「①大きな引き出し」
小学校4年生の光紀は、
書物や楽譜を全て記憶できる
(しまう)ことができる。
その能力の存在を
疑問に感じていたある日、
近所のおじいさんが心臓発作で倒れる。
光紀はその目から彼の伝えたいことを
一瞬で理解する。
登場する常野一族:
光紀・記実子・貴世志・里子
「②二つの茶碗」
取引先の重役に食事を誘われた篤は、
その店の娘・美耶子と出会う。
彼女は人間の将来が
読み取れるのだという。
数日後、再びその店を訪れた篤は、
店主から娘をもらってくれと頼まれる。
彼は政治の世界へと踏み出す。
登場する常野一族:美耶子
「③達磨山への道」
数日前に藍子と別れた泰彦は、
親友の克也を誘って達磨山へ出かける。
達磨山は常野一族の
聖地といわれていた。
そこで出会った幻のような少女は、
克也と藍子の子どもの
将来の姿であることに泰彦は気付く。
「④オセロ・ゲーム」
OLの暎子は、
常人には見えない「あれ」と戦っている。
「あれ」を「裏返す」ための
高い能力を持っている。
しかし力負けして「裏返される」と
囚われの身となるのだ。
ある日、暎子は強力な「あれ」と対峙し、
「裏返され」そうになる。
登場する常野一族:暎子・時子
「⑤手紙」
泰彦の父・篤彦の求めにより、
寺崎は「常野」についての調査報告を
こまめに手紙で送っている。
その過程で、
在学時の校長・通称ツル先生が、
かなりの長い時間を
生きていることを知る。
寺崎は達磨山に登り、
ツル先生と再会する。
登場する常野一族:ツル先生
とりあえず半分の5つまでで
今回は終わりにしたいと思います。
ここまでの5編は
ほとんど重なり合いません。
わずかに③と⑤で、
達磨山という土地が同一であること、
そして③の泰彦と⑤の篤彦が
親子であることだけが繋がっています。
この5編は
どこでどう繋がってくるのか?
(2019.8.17)