「くまとやまねこ」(湯本香樹実・酒井駒子)

湯本香樹実の文と酒井駒子の絵が織りなす極上の絵本

「くまとやまねこ」
(湯本香樹実・酒井駒子)
 河出書房新社

なかよしのことりを
失ったくまは、
小さな木の箱をつくり、
ことりを入れた。
そして自分の家に
閉じこもるようになった。
ある日、
あまりにもよい天気だったので、
くまは久しぶりに外に出た。
くまはそこで
やまねこと出会う…。

勤務校の図書館で
何気なくページをめくり、
およそ絵本とは思えない
モノトーンの連続に驚きました。
読んで納得しました。
大切な人の「死」がテーマなのです。

「ねえ、ことり。
 きょうも『きょうの朝』だね。
 きのうの朝も、
 おとといの朝も『きょうの朝』って
 思ってたのに、ふしぎだね。」

そして
「ああ、
 きのはきみがしんでしまうなんて。
 ぼくは知りもしなかった。
 もしもきのうの朝にもどれるなら、
 ぼくはなにもいらないよ」

突然訪れた大切な人の死。
ことりの入った小箱を持ち歩くくまの、
何と痛々しい姿でしょう。

しかし本作品は
「死」だけで終わってはいません。
出会ったバイオリン弾きのやまねこから
タンバリンを受け取ったくま。
「それにしても、
 ずいぶんふるいタンバリンでした。
 手のあとがたくさんついて、
 茶色によごれています。
 いったいこのタンバリンは、
 だれがたたいていたのでしょう。」

やまねこもかつて大切な人を
失ったことが窺われます。

「ぼく、れんしゅうするよ。
 おどりながら、タンバリンを
 たたけるようになりたいな。」

やまねことの新しい出会いが、
くまの新しい出発につながったのです。

大切な人を失ったとき、
「時間が止まる」という感覚を、
多くの人が覚えます。
その「止まった時間」の中で
生きるのもやむを得ないことであり、
否定すべきことではありません。
でも、
「時間はいつも流れている」のです。
「新しく流れる時間」の中に
勇気を持って
飛び込むことができるのなら、
人は新しい幸せを
得られるに違いありません。

喪失」と「再生」という難しいテーマを、
動物の世界に置き換えることにより、
長編小説に匹敵する世界を
編み上げた湯本香樹実の文章。
そして終始モノクロでありながら、
そこに深い哀しみとともに
何ともいえない温かさを
感じさせる酒井駒子の絵。
その二つが織りなす極上の「絵本」です。

これこそ中学生に
ぜひ読んでほしい絵本といえます。
想像力をはたらかせなければ
読み取れない作品であり、
文学作品以上の読み応えがあります。

(2019.8.28)

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