「シジスモンの遺産」(ユザンヌ)

抱腹絶倒の面白さと古書への溢れる情愛

「シジスモンの遺産」
(ユザンヌ/生田耕作訳)
(「百年文庫014 本」)ポプラ社

愛書家シジスモンが亡くなる。
彼と競い合っていたギュマールは、
彼の蒐集品を
買い取ろうと画策する。
しかし遺書により、
蔵書はいかなる条件の下でも
譲渡が禁止されていて、
現在のまま
厳重に管理されるのだという…。

ユザンヌという
聞いたことのない作家の作品ですが、
抜群の面白さです。

シジスモンの書棚には
これまで手に入れることのできなかった
名書の数々が眠っているのです。
ギュマールは
何とかこれを入手しようと考え、
管財人である女性・エレオノールとの
結婚をもくろみます。
ところが彼女の年齢は何と58歳。
49歳のギュマールは
それでもひるみません。
「それがどうした!
 女性とはなんぞや?
 イヴの一版にすぎん。
 保存状態に多少の差はあるが」
「なるほど、
 しかし装幀も大事なんでは?」

弁護士とのやりとりに
まず笑わせられます。

そのエレオノール嬢は
なんとシジスモンのかつての婚約者。
シジスモンが
古書蒐集に熱を上げてしまい、
彼女との結婚を
先延ばしにし続けて45年。
一生を棒に振ってしまった彼女は
シジスモンを、いや
彼の蒐集品を憎んでいるのです。

彼女は遺言どおり現状維持のまま、
蔵書に対して復讐を敢行していました。
屋根裏部屋でガーデニングを行い、
その下の書斎に湿気を籠もらせ、
蔵書を黴らせる。
二十日鼠をつがいで300匹書斎に放し、
蔵書を食いちぎらせる。
なんともはやばかばかしい復讐劇です。

ギュマールも対抗措置をとります。
隣家を買い取り、
真夏にもかかわらず暖房を焚きまくり、
書斎の湿気を取り除く。
真夜中にひそかに屋根裏を修理し、
雨水の浸入を食い止める。
猫を侵入させ、鼠の駆除を行う。
こちらも負けず劣らず
噴飯物の対応の連続です。

睨み合い、策略、奇襲、白兵戦が
繰り返された
焚書家VS愛書家の泥仕合も、
5年の歳月を費やした末に
終結を見ます。
果たして勝ったのはどちらか?
とんでもない結末を、ぜひ読んで
確かめていただきたいと思います。

このユザンヌ自身が
稀代の愛書家であったということを、
巻末の解説を読んで知りました。
古書の蘊蓄が
ところどころで語られている本作品、
たしかに単なる
ユーモア小説ではありません。
本に対するリスペクトが
溢れ出ているのです。

抱腹絶倒の面白さと
古書への情愛に貫かれた
「シジスモンの遺産」。
何か面白い小説はないかと
探しているあなたへお薦めします。

(2019.9.20)

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