桂井と沢辺の、男としての在り方
「白梅の女」(円地文子)
(「百年文庫010 季」)ポプラ社

前回取り上げた本作品、
私がもう一つ注目したのは、
たか子と関わる二人、
熱い恋に落ちた桂井と、
夫となった沢辺の、
男としての在り方です。
それが端的に表れているのが、
たか子の手を握って語る場面です。
本作品には
二人合わせて三回登場します。
場面①
沢辺が「がっしりした手に
たか子の手を握りしめ」て
プロポーズします。
「僕はきっとあなたを幸福にしますよ。
どんな困難なことにぶつかっても、
あなたが妻として、
僕と一緒にいてよかったと
思えるように努力します。」
場面②
妻・たか子への最後の言葉として
沢辺は「たか子の手をとって
言」うのです。
「あなたは約束を守ってくれたね。」
自分亡き後、
妻が安心して暮らせるよう、
子どもたちにも遺言し、
遺産も生前贈与した沢辺。
たか子との「恋愛」的な場面は
一切描かれてありません。
しかし彼は静かに、
そして長きにわたって
たか子に確かな愛情を
注ぎ続けたのです。
それに対して桂井は
激しい情熱を
一気に爆発させたといえるでしょう。
若き日の桂井を、
たか子は「嶮しい谷の岩間を
ほとばしり下ってしぶきを上げる
渓流のように清冽な男」だと
感じています。その桂井は…。
場面③
桂井がたか子と最後に会ったとき、
「手をしっかり握って」語ります。
「昔は、あれほど、あなたの内へ
傍若無人に侵入して行って、
あなたを狂わせることの
出来た私だったが、
今では、これしか
自分の気持ちを伝える方法が
なくなってしまった…
老年というのは悲しいし、
厳粛なものだね」
二人を比較したとき、
沢辺のほうが人間的に
成熟しているといえるかも知れません。
あくまでもたか子のことを
第一に考えて振る舞うことが
出来ているのですから。
それに対して桂井は一方的であり、
たか子の将来まで考えていないと
誹られても仕方ありません。
しかし彼は自分の気持ちに
正直だったともいえます。
だからこそ、たか子も
狂うような恋に落ちたのです。
男としての在り方を考えたとき、
どちらに軍配が上がるのか?
女性の方に
ぜひうかがいたいと思います。
まあ、そんな二人に
愛されたのですから、
たか子は幸せな女性だったのでしょう。
短篇作品でありながら、
読み手にいろいろなことを考えさせる
奥深さを持った逸品です。
(2019.9.26)
