この「青さ」と「未熟さ」が眩しい
「百年文庫077 青」(ポプラ社)

「麦藁帽子 堀辰雄」
夏休みの避暑地で、
「私」は少女と念願の再会を果たす。
彼女は「私」の幼馴染みであり、
「私」の年上の友人の妹である。
かつて幼かった彼女は、
見違えるような娘となって
「私」の前に姿を現した。
「私」は彼女の気を引こうと…。
「少女 ウンセット」
いつまでも仲良しでいようと
誓ったシーフとエルナの
二人の少女。
エルナの引っ越し以来、
疎遠になっていたものの、
シーフは彼女に手紙を書き、
アネモネ摘みに出掛けようと誘う。
その当日、
半年ぶりに再会した二人は…。
「コロンバ デレッダ」
失恋し、
傷心で帰郷したアントニオは、
ひたむきな田舎娘コロンバと出会い、
いつしか心惹かれる。
コロンバの父親は
彼女を金持ちの羊飼い・
ロイのところへ
嫁に出そうとしていた。
貧乏な教師であるアントニオは、
思い悩む…。
百年文庫37冊目読了です。
本書のテーマは「青」。
主人公の初々しい「青さ」を
描いた作品集です。
「麦藁帽子」には
「私」の18~20歳の恋が綴られています。
現代であれば大学生の年齢ですが、
十分に「青い」です。
「少女」のシーフとエルナは
中学校1年生くらいの二人です。
まだまだ蕾の段階です。
「青」すぎます。
「コロンバ」を愛するアントニオは
職業人それも教師でありながら、
やはり「青い」です。
「青さ」だけでなく、
三作品の主人公たちには
「受身姿勢」であることも
共通しています。
「麦藁帽子」の「私」は
少女にまったく
アプローチしていません。
偶然の再会の中で
何かが起きることを
待ち続けているだけなのです。
震災後の天幕の中で
一家雑魚寝をしたとき、
隣に寝ている少女の髪が
頰にかかっただけで
幸せそうにしているくらいです。
「少女」の二人も
些細なことで気まずくなります。
「何か言えばいいのに」と
思ってしまいますが、
そこがまだまだ
青い少女ゆえなのでしょう。
その点、アントニオ青年は
やや積極的な面が見られますが、
それらはすべて裏目に出ます。
若い人が読めばもしかしたら
「こうすればいいのに」と
やきもきしてしまうかも知れません。
しかし、50を超えた私には、
この「青さ」と「未熟さ」が
たまらなく美しいものに感じられます。
眩しすぎるくらいです。
堀辰雄以外の
二人の作者の作品は初めてでした。
調べてみると二人とも
ノーベル賞を受賞した女性作家です。
日本にノーベル賞受賞女性作家が
現れるのは
いつのことになるだろうかと、
ふと考えてしまいました。
(2019.9.30)
