読み手の視点に立った親切な昆虫本
「昆虫はすごい」
(丸山宗利)光文社新書

これは面白かった!
ベストセラーになったのも
うなずけます!
こんなことを言っては何ですが、
自然科学の新書本で、
売れる本は決して多くはありません。
科学者が著した本は、
専門性が先走ってしまって
一般人が読むには
難しすぎる本が多いからです。
その点、本書は読み手の視点に立った
親切な本です。
本書を手にするであろう多くの人たちが
「昆虫」に何を期待しているのかを
しっかりイメージして
書き進められています。
本書の親切なところ①
1つ1つのトピックを
コンパクトにまとめ、
かつ平易な文体で
読み取りやすくしてあること
1トピックが1~2ページ。
専門用語の使用を極力抑え、
わかりやすくまとめてあります。
本書の親切なところ②
章立てを工夫して興味を引くような
配列をしてあること
例えば第2章「たくみな暮らし」では、
「収穫する」「狩る」「着飾る」
「まねる」「恋する」
「まぐわう」…と続きます。
えっ、「まぐわう」っ!?
本書の親切なところ③
昆虫の生態を
人間の行動や社会になぞらえて、
その意味するところを
具体的に説明していること
巻頭で著者が、
「読者がおそらく一番驚くのは、
ヒトが文化的な行動として
行っていることや、
文明によって生じた主要なことは、
たいてい昆虫が
先にやっているという
事実であろう」
と述べていますが、
まさにそのとおりです。
本書の親切なところ④
写真資料が豊富な一方
決してグロテスクではなく
「虫嫌い」の方でも
十分読み進められること
私もどちらかというと虫は苦手で、
特に毛虫は写真すら見たくありません。
画像の選択や掲載するサイズにも
配慮がなされています。
本書の親切なところ⑤
1つ1つの事例の根拠となる
論文の出所が逐一紹介されていること
この手の新書本では、やや怪しげな
科学者もどきと疑われるような方が、
伝聞や思い込みで書いたのではないかと
疑われる例もあります。
本書は全体を通して
膨大な文献を参照したのでしょう、
相当な時間と労力がかけられています。
出展を一つ一つ明確にするという、
科学者としての
真摯な姿勢が表れています。
というわけで、自然科学で希に見る
イチオシの良書です。
昆虫の学習を終えた
中学校2年生あたり、
そして生物を履修している
高校生に読んでほしい1冊です。
※本書をはじめとして
「ドキュメント宇宙飛行士選抜試験」
「雲を愛する技術」
「バッタを倒しにアフリカへ」など
近年の光文社新書は
自然科学分野で面白い本を
続々と生み出しています。
光文社新書から目が離せません。
(2019.10.5)
