紙面から音楽がきこえてくるような錯覚
「ピアノの森 第1巻~第26巻」
(一色まこと)講談社


すみません。
午前の「花もて語れ」に続いて
今回も漫画です。
読書案内のブログなのですが、
この漫画は特別です。
面白さのあまり、
全26巻コツコツと揃えました。
町外れの「ピアノの森」で育った
少年・一ノ瀬海(カイ)が、
周囲の人々との交わりの中で
ピアノの才能を開花させるという
物語です。
1巻~7巻では、少年・カイが、
元天才ピアニストの阿字野や
ピアニストの息子・雨宮修平との
出会いによって、
ピアノの才能を発揮していきます。
8巻以降は、高校生となったカイが、
阿字野と組んで
ショパンコンクールを目指します。
筋書き自体は
漫画にありがちなパターンです。
幼少期にふとしたきっかけで
才能が見いだされ、
一つ一つ難関を乗り越えて
その才能を進化させる。
舞台は次第にスケールアップしていき、
ついには世界の頂点に立つ。
探せばいくらでも見つかりそうな
お決まりの展開といえます。
では何が面白いか?
それは紙面から音楽が
聞こえてくるような錯覚に
包まれることなのです。
漫画で音を表現することは
本来難しいはずです。
しかも、
カイは型破りなピアニストとして、
これまでの解釈を打ち破る
まったく新しい演奏をする
ピアニストとして描かれています。
いかめしい顔つきをして
厳粛に音楽を奏でるのではなく、
音楽とじっくり対峙し、
その音楽の本質を掴み、
自分の表現したいように奏でる。
やりたいことの
すべてをやり尽くす姿勢。
小気味よい限りです。
でも、それを漫画で表すのは
難しいと思うのです。
ショパンやモーツァルトなど、
作品中に登場するピアノ作品は
すべて知っています。
その曲のあるべき姿を
打ち破る演奏とは、
私が未だ聴いたことのない
演奏様式なはずです。
それが何となく
イメージできてしまうほど、
圧倒的な表現で迫ってくるのです。
しかも、13巻以降の後半部では、
そうした新進気鋭の
若手ピアニストが何人も登場し、
ショパンコンクールに臨みます。
あたかもカイを含む
コンクール挑戦者一人一人の
演奏するショパンの、その個性を
聴き分けられたかのように
感じてしまうのです。
「漫画も読書のうち」などと
言われますが、
両者は明確に違うものと
私は考えています。
その上でなお
子どもたちに薦めたい漫画です。
暴力やロリコンキャラの氾濫する
昨今のマンガとは一線を画す名作漫画。
いかがでしょうか。

※本作品を愛読していた数年前、
ふと思いました。
このカイのような
演奏をするピアニストは
すでに登場しているのではないかと。
それ以来、クラシックCDについては、
過去の名盤集めを控え目にし、
新しい演奏家のCDを
買い求めるようになりました。
(2019.10.18)
