「ウホッホ探検隊」(干刈あがた)

新しい出発として「離婚」を前向きに捉えた作品

「ウホッホ探検隊」(干刈あがた)
 河出文庫

君はネクタイの結び方を
教えてもらうために、
父親の仕事場へ行ったのだ。
君はそれを
覚えて帰らなければならない。
卒業式の朝は、自分で
結ばなければならないのだから。
君は知っている。
父と母が、
もう夫と妻ではないことを…。

めったに行くことのない、
リアル書店の書棚で見つけた一冊。
懐かしい作品が復刊されていました。
80年代だったでしょうか。
本作品が映画化されたのは。
タイトルから内容を類推するのが
難しい作品であるため、
知らない人は手に取ろうと
しないのではないかと思います。
探検小説ではありません。
離婚した家族の日常を描いた作品です。

現代であれば、離婚など
そこここで耳にする話題であり、
また離婚を描いた小説も
目新しくはないでしょう。
本作品発表当時も
離婚は珍しくはなかったのでしょうが、
離婚を前向きに捉えた小説は
本作品が先駆けだったのではないかと
思うのです。

主人公である母親
(おそらくは著者自身)は、
離婚という事実を
子どもに隠すのでもなく、
相手を罵るのでもなく、
すべてを自分で受け入れて、
飲み込もうとしています。
ある意味、自虐的ともいえる姿勢は、
現代の女性から見ると
歯がゆさを覚えるかも知れません。
しかし、
子どもと父親のこれからの関係を考え、
そして元夫の新しい家族のことも考え、
誰も不幸にならないような形で
新しい生活を
始めようとしているのです。
それは離婚を
何かの終焉として捉えるのではなく、
新しい出発として
前向きに捉えていることの
表れだと思うのです。

二人の男の子たちとのやり取りも
微笑ましい限りです。
「だって僕、脇毛、はえてきたもん」
「本当、見せて見せて」
「何ですか、あんた息子に」
「見せてよ。ちょっとでいいから。
 産んであげたんだから、
 見せてくれたっていいでしょ」

違和感を覚える表題も、
読み進めば納得できます。
父母の離婚をしっかりと受け止めた
子どもたちのセリフが秀逸です。
「僕たちは探検隊みたいだね。
 離婚ていう、日本では
 まだ未知の領域を探検するために、
 それぞれの役をしているの」
「お父さんは家に入って来る時、
 ウホッホって咳をするから、
 ウホッホ探検隊だね」

1984年出版ですが、
内容は決して古びてはいません。
家族の在り方を考えたとき、
むしろ現代にこそ
読まれるべき作品だと考えます。

※復刊は嬉しい限りですが、
 大きい活字・幅広の行間にして、
 本作品一編のみでの出版は
 やや寂しい気がします。
 著者の他の作品を2~3編
 入れて欲しかったと思います。

※家族の在り方をテーマにした作品を
 今日は2つ並べてみました。
 鷺沢萠も干刈あがたも
 もうこの世にはいません。
 作品が読み継がれることを
 祈るばかりです。

(2019.10.24)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA