「電報」(黒島伝治)①

いくら働いても貧乏から抜け出せない

「電報」(黒島伝治)
(「百年文庫083 村」)ポプラ社

いくら働いても
貧乏から抜け出せない
百姓・源作は、
息子にはこのような暮らしは
させたくないと願い、
息子を中学校へ通わせようと
試験を受けさせる。
しかしそれは瞬く間に
村の噂となり、
源作は周囲から
冷たい言葉を…。

あまりにも悲惨な明治・大正期の
労働者の実態に、
現代の私たちは言葉を失います。
明治の世になり、身分制度が廃止されて
表向きは自由で平等な社会に
なったとはいえ、
実際は職業による貴賤の差が
根強く残っていたのです。

いくら働いても貧乏から抜け出せない。
父も祖父もそうだった。
自分はしかたないものとしても、
子や孫にはこのような生活は
させたくない。
それが源作の考え方です。
当然だと思います。
で、どうなったか?

源作と女房のおきのは、
周囲から散々皮肉を言われます。
それでも動じなかったのですが、
税を納めに行った役場の窓口で
こう言われ、折れてしまうのです。
「労働者が、
 息子を中学へやるんは良くないぞ。
 人間は中学やかいへ行っちゃ
 生意気になるだけで、
 働かずに、理屈ばっかしこねて、
 却って村のために悪い。」

本来、教育こそが国や地域を造る
基盤であるはずです。
しかし、「村」という狭い地域では、
一部の金持ちや権力者たちが
自分の権益を守り、
他の民衆を支配する方向へと
流れが向かっていきます。
源作はそうした流れに立ち向かうも、
打ち勝つことはできなかったのです。

源作は息子を村へ呼び戻します。
最後の二行がやりきれません。
「県立中学に合格したという
 通知が来たが、
 入学させなかった。
 息子は、今、
 醤油屋の小僧にやられている。」

これは明治の時代だけの話か?
いやいや、そうではないでしょう。
現代も親の貧困が
子に受け継がれる構造は
一向に改善されていません。
家庭の経済状態にかかわらず、
子どもたちが平等に学ぶ環境が
十分に整備されていないのです。

金は少ないところから多いところへ
吸い寄せられるように集まり、
金持ちは苦労せずさらに裕福になり、
労働者はいつまでたっても
貧困から抜け出せない。
黒島伝治の作品は、
この国の暗黒の歴史の証言として、
読み継がれるべきものです。
そしてそれは決して
古びてしまったものではなく、
現代にこそ必要な視点を孕んだ
貴重なものなのです。
大人のあなたにぜひお薦めします。

※本作品は講談社文芸文庫版
 「橇・豚群」でも読むことができます。

(2019.11.5)

【青空文庫】
「電報」(黒島伝治)

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