なにかホームドラマにでもなりそうな
「秋日和」(里見弴)
(「百年文庫004 秋」)ポプラ社
未亡人となった母と
一緒に暮らす娘は、
もう結婚適齢期。
ところが社交的な母親と比べて
娘は消極的…というよりも
男性嫌いか潔癖症か、
縁遠い性格だった。
それならばと、
夫の七回忌に集まった同級生たちが
いらぬお節介を焼いて…。
いかにも日本人らしい、
というか日本人好みの筋書きです。
このお節介という性分は
日本人独特のものなのでしょうか。
同級生の娘が
いい年頃であるにもかかわらず
結婚に無関心であることを心配し、
知恵を絞る。
余計なお節介以外の
何物でもありません。
しかも、
そのアイディアがふるっています。
娘が結婚しないのは、
いつまでも再婚しない母親が悪い。
ではまずは母親を再婚させてしまえ。
で、妻に先立たれた
同級生・小野寺に白羽の矢を立て、
再婚を勧めます。
娘を結婚させるために、お前、
あの母親を後添えとしてもらえよ。
考えてみれば失礼千万です。
そうした顛末が、
未亡人である三輪秋子、
秋子の再婚相手として見込まれた
同級生・小野寺誠、
秋子の娘アヤ子の友達・佐々木美也子、
秋子の亡き夫の同級生・間宮宗一の
4人の視点から語られます。
秋子視点では、
姉妹と間違われるほどの娘・アヤ子との
親子関係が丹念に描かれています。
周囲のお節介をさほどいやがらずに
受け入れている母に対し、
ストレートに怒りをぶつけるアヤ子。
でも、それを引きずらずに
仲直りする友達のような親子。
何ともいえない清々しさを
感じさせます。
小野寺視点では、
同級生たちから
秋子との再婚を勧められ、
迷惑に感じながらも決して怒りには
つながっていないようすが
綴られています。
同級生たちの気持ちを理解し
受け止めているところが
微笑ましい限りです。
そして、美也子視点では、
同じ世代として、
自分とは違うタイプのアヤ子を
しっかり観察しているようすが、
間宮視点では、
同級生の一人としての
お節介を焼かざるを得ない心境が、
ほのぼのと表現されています。
結局、最後はアヤ子も
結ばれるべき男性と出会い、
結婚を果たします。
まわりが心配しなくても、
落ち着く所に皆さん落ち着くのです。
爽やかな秋晴れのような
日本人的情緒を感じさせる作品です。
なにかホームドラマにでも
なりそうな筋書き…と思ったら、
その昔、小津安二郎が原節子主演で
1960年に映画化していました。
知りませんでした。
(2019.11.11)