「百年文庫004 秋」

人と人との繋がりが最も鮮明に現れる季節・秋

「百年文庫004 秋」ポプラ社

「流行感冒 志賀直哉」
最初の子を
病で死なせてしまった「私」は、
最愛の娘のために、
家族の衛生面に
神経質なまでに気を配る。
流行感冒が町に流行りだした秋、
「私」は家人の外出を制限する。
折しも町では旅役者の夜興業が
行われようとしていた…。

「置土産 正岡容」
両親を亡くし、
師匠とも死別した
若い講釈師・万之助。
彼に声をかけたのは
名人・如燕師匠。
秘伝の「百猫伝」を
教えるという言葉につられ、
家を訪ねると、
そこはボロ家で老婆が一人。
そうこうしているうちに
借金取りがやってきて…。

「秋日和 里見弴」
未亡人となった母と
一緒に暮らす娘は、
もう結婚適齢期。
ところが社交的な母親と比べて
娘は消極的…というよりも
男性嫌いか潔癖症か、
縁遠い性格だった。
それならばと、
夫の七回忌に集まった同級生たちが
いらぬお節介を焼いて…。

百年文庫10冊目を読み終わりました。
全100巻ですから
まだ道程は10分の1。
この第4巻は、タイトルとなっている
「秋」という美しい季節にちなんだ
3編が収められています。

共通テーマは「秋」。
もちろん3作品とも
舞台となる季節は「秋」です。
しかしそれだけでなく、
共通するのは
「人と人との確かな繋がり」でしょうか。

「流行感冒」では、
一度追い出そうとした女中に対する
「私」の感情がその後大きく変容し、
人と人との繋がりは
当人たちが意識するよりも
強いものであることを示しています。
「置き土産」では、
はた目にはふざけているとしか
見えない如燕師匠が、
その実しっかりと
万之助を後継者として
意識している姿が印象的です。
「秋日和」では、
亡くなった夫の同級生が甲斐甲斐しく
いらぬお節介を焼いている姿が
いかにも日本的な
人間関係として描かれています。

もう一つの共通点は、
3作品とも最後は
結婚にまつわるおめでたい
締めくくりであることです。
「流行感冒」では女中・石が嫁ぎます。
「良人がいい人で、
 石が仕合わせな女となる事を
 私達は望んでいる。」

「置き土産」では
万之助(名を燕林と改める)は
如燕師匠の娘・おしゅんと
何ともいい感じで終わります。
「何とも云えない好もしさを、
 おしゅんの上に燕林は感じた。」

「秋日和」では、
アヤ子が庄太郎という伴侶を得ます。
「アヤ子にも、庄太郎さんにも、
 どこからか降り注いでくる
 『けなげだぞ』という
 褒め言葉に泣かされる」

秋晴れの空のような
清々しい余韻を持った3作品です。
人と人との繋がりが最も鮮明に
現れる季節が秋なのかも知れません。

(2019.11.16)

hiyoriさんによる写真ACからの写真

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