「白蠟変化」(横溝正史)

由利・三津木の事件簿03

「怪人物」たちのバトルロワイアル

「白蠟変化」(横溝正史)
(「花髑髏」)角川文庫

「花髑髏」角川文庫

「白蠟変化」(横溝正史)
(「由利・三津木探偵小説集成1」)
 柏書房

「由利・三津木探偵小説集成1」

死刑判決を受けたかつての
婚約者・慎介を救うため、
月代は資産をつぎ込み、
脱獄計画を練る。
首尾よく進んだものの、
脱獄した男は慎介ではなかった。
それは詐欺・恐喝強盗・
誘拐等の罪で服役していた
希代の犯罪人・
白蠟三郎だった…。

最愛の人を救出するつもりで
女たらしの犯罪者を
野に放ってしまった美人歌手。
一体どうするの?と思っているうち、
筋書きはめまぐるしく展開し、
息をつかせぬ一代冒険活劇へと
進展していきます。
横溝正史由利・三津木シリーズ
コンビで活躍する第一作である本作品。
しかしながらその味わいどころは
そうした筋書き以上に、
次から次へと登場する「怪人物」たちの
バトルロワイアルです。

【事件簿03 「百蠟変化」】
〔事件捜査〕
由利麟太郎…私立探偵。
三津木俊助…新日報社記者。
〔事件関係者〕
白蠟三郎
…慎介と間違えられて脱獄した犯罪者。
 女たらし。
六条月代
…若き女流声楽家。元婚約者の諸井を
 救出するため脱獄計画を実行。
諸井慎介
…妻殺害の無実の罪で
 死刑判決を受ける。
 月代と婚約していたが、親族間の
 事情で別の女性と結婚していた。
諸井梨枝
…慎介の妻。
 慎介に殺害されたとされる。
 大店「べに屋」の娘。慎介は婿養子。
鴨打俊輝
…医学博士。慎介の従兄。
 月代との結婚を画策している。
石黒謙吉
…月代から持ち掛けられた
 脱獄計画を実行。船員。
花園千夜子
…帝都劇場の踊り子。白蠟三郎逮捕の
 きっかけをつくった女。
鮫島鱗三(遊佐耕平・町田竜治)
…千夜子に飼われていた美少年。
 月代に深い憎しみを持つ。
寅三(馬三・鹿蔵)
…鱗三の手下。蛙面をした醜怪な男。
河野君江
…不良少女。遊佐耕平の女中となる。
 耕平の愛人・相良美子が
 殺害されるのを目撃。
 お栗という名で
 鴨打博士の病院に潜入。
相良美子
…遊佐耕平の愛人らしい。殺害される。
梟婆(ふくろばばあ)
…白蠟三郎の手下。

上の登場人物を見てもわかるとおり、
本作品は怪人物だらけなのですが、
「怪人物ランキング」をもって
味わいどころの
紹介としたいと思います。

怪人物ランキング第4位:白蠟三郎
粗筋では彼の犯罪を詐欺・恐喝強盗・
誘拐「等」で省略しましたが、
その後に「陵辱」が続きます。
一言でいえば「女の敵」なのです。
それも「猫のような瞳で、一度、
じいっと凝視められたが最後、
どんな女でもそれに抵抗はできないと
いわれている」のですから、
何とも羨ましい…、
いやいや何とも憎らしい悪党です。

それでいながら、脱獄後の彼は
犯罪らしき所業をしていません。
最後まで読み進めると、
決して憎むべき悪党ではないのが
魅力です(でも悪党です)。

怪人物ランキング第3位:鴨打俊輝
冒頭からいかにも悪人として
登場するのがこの鴨打博士です。
彼の魂胆は明白です。
慎介を陥れ、その間に
月代を自分のものに
してしまおうとするのです。
月代を眠らせて
自身の病院の一室に監禁したり、
怪女性・花園千夜子と
愛人関係を結んでいたりと、
なかなかしたたかな悪党なのです。

怪人物ランキング第2位:鮫島鱗三
脱獄後にさまざまな犯罪を
犯すと思われた百蠟を、
見事に弄ぶさらなる悪人が
この「美少年」鮫島鱗三なのです。
その後に起こる殺人事件は
この美少年の仕業です。
最後に解き明かされる
その正体が衝撃的です。

それにしても、なぜこの美少年が
帝都劇場の踊り子・花園千夜子などに
飼われていたのか不思議です。

ここまで第4位から第2位までの3人を
紹介しました。
第5位以下を見てみましょう。

怪人物ランキング第5位:花園千夜子
白蠟三郎の復讐を恐れる、
か弱い踊り子などではありません。
悪党・鴨打博士の愛人であり、
さらには怪人物第2位の美少年を
地下室の檻の中に監禁し、
いたぶっていたのですから、
なかなかの悪党です。
でも、殺人鬼ともいえる鮫島鱗三を
どうやって監禁したのか?
やはり怪人物です。

怪人物ランキング第6位:石黒謙吉
船員上がりのチンピラと思いきや、
月代に依頼されて慎介救出の
脱獄計画を実行するほどの
腕の持ち主なのです。
子分数人を使い、
拘置所に地下トンネルを貫通させ、
見事に脱獄させます。
ただしそれは慎介ではなく
白蠟三郎だったのですが。

怪人物ランキング第7位:寅三
鱗三の手下として犯罪に加担します。

怪人物ランキング第8位:河野君江
精神障害を装って、
鴨打病院への潜入捜査を試みます。
鱗三に殺害されてしまうのですが。

怪人物ランキング第9位:梟婆
ちょい役なのですが、
そこにも怪人物を起用する
横溝正史のこだわりを感じさせます。

怪人物ランキング第10位:相良美子
耕平(鱗三)に
殺害されたらしいのですが、
死体は発見されません。
やはり怪人物です。

今日のオススメ!

以上、怪人物ランキングを
発表しましたが、本作品は、
第2位から第4位の悪人三人が
三つ巴となり、月代の争奪戦の様相を
呈してくるのです。では、
怪人物ランキング堂々の第1位は?

怪人物ランキング第1位:六条月代
しかし、それ以上の「怪人物」は
なんといっても主人公・月代でしょう。
栄えある怪人物ランキング第1位です。
金の力で屈強の男たちに
刑務所の地下までトンネルを掘らせ、
手段を選ばず愛する人の命を
救おうとします。
鴨打博士に誘拐されても、
美少年に熱濃硫酸を
浴びせられそうになっても、
白蠟三郎につきまとわれても、
動じることなく立ち回ります。
最後の悲劇(こちらは読んで
確かめてください)をも乗り越えて、
最後は幸せを掴みます。
まさに「快」人物です。

こうした登場人物に比較して、
本来主人公であるべき
由利先生・三津木俊助の探偵コンビは
存在感が薄すぎます。
事件解決はほとんど
白蠟三郎がしたようなものです。
本作品に限らず、
戦前の横溝の由利・三津木作品は、
こうした個性際立つ「怪人物」の
独壇場となっているのですから
仕方がないでしょう。

残念ながら本作品も
文庫本では読むことができません。
最近発売された柏書房刊
「由利・三津木探偵小説集成1真珠郎」に
収録されていますが、
価格が3000円ほどと割高です。
文庫本でしっかりと
復刊してもらいたいものです。

(2019.11.20)

〔追記〕
ところが2020年6月に、
収録本「花髑髏」が見事に復刊しました。
TVドラマ「探偵・由利麟太郎」
製作に伴うものです。
しかも杉本一文装幀画で。
早速購入しました。
上の写真は新しい版です。
旧版の表紙は下の写真です。
マイナー・チェンジが
為されているのですが、わかりますか?

「花髑髏」昭和時代の表紙

(2022.7.1)

〔追記〕
こちらもご覧下さい。

墓村幽の味わえ!横溝正史ミステリー

ぜひチャンネル登録をお願いいたします!

(2023.9.26)

〔角川文庫「花髑髏」収録作品〕

〔「由利・三津木探偵小説集成1」〕
獣人
白蠟変化
石膏美人
蜘蛛と百合
猫と蠟人形
真珠郎
付録①六人社版「真珠郎」序文ほか
付録②名作物語「真珠郎」
編者解説(日下三蔵)

〔関連記事:由利・三津木シリーズ〕

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〔柏書房「由利・三津木探偵小説集成」〕

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