「家族」って何だろう
「幸福な食卓」(瀬尾まいこ)
講談社文庫
父親を辞めると宣言した父。
別居中なのに
料理を届けに来る母。
天才的頭脳を持ちながら
晴耕雨読の日々を送る兄。
佐和子の家族は
みんなどこか変わっている。
そんな中で佐和子は
気になる男の子・大浦くんと
出会い、惹かれていく…。
「家庭崩壊」という言葉が
聞かれるようになってから
久しくなりました。
本作品に描かれているのは、
一言で言うならばまさに
「家庭崩壊」した家族です。
父親辞職宣言した父親は、
中学校教師という職まで
辞めてしまいます。
それだけならコメディなのですが、
実は五年前の梅雨の時期に
自殺未遂を起こしているのです。
それ以来、佐和子は
梅雨がくると心身の調子を崩します。
母親の別居は夫婦仲の悪化が
原因ではありません。
夫への愛情が深かったゆえに、
自殺を未然に気付けなかった
自分を責めているのです。
だからこそ
一人になる必要があったのです。
元天才児の兄は、彼女ができても
約3ヵ月で別れてしまいます。
容貌も良く性格も穏やかなのですが、
長続きしません。
佐和子の知らないところで、
彼は心に異常を来していて、
物事に本気になることを
自分から押さえていたのです。
こうしてみていくと、佐和子以外、
精神を病んでいる家族なのですが、
表面的に悩んでいるのは佐和子だけで、
みな一様に平然を装っているのです。
全4話が1年刻みで進行する中で、
佐和子も必然的に成長し、
それまで見えなかった
「家族が抱えているもの」が
見えてきます。
そして、自分がこれまでどのように
「家族」から守られていたかを
知ることになるのです。
崩壊しているようで、
実は根っこの方で
しっかりと繋がっている。
だから「家族」なのだということを、
改めて思い知らされます。
父・母・兄がそれぞれ
抱えているものの詳細については
一切明らかにされていません。
しかし三人が、家庭における
それぞれの役割をいったん放棄し、
家族の在り方と自分の在り方を
再構築しようとしている姿は、
痛々しくも美しいものを感じさせます。
三者三様のやり方で、苦しみながらも
困難を乗り越えようとしていることが
伝わってきます。
「家族」って何だろう。
佐和子と同様に、
読み手である私たちも
否応なく考えざるをえません。
映画化もされた
瀬尾まいこの連作短篇集。
中学生に薦めたいと思います。
(2019.12.4)