「幻の女」(横溝正史)

由利・三津木の事件簿11

読み手を作品世界に釘付けにして離しません。

「幻の女」(横溝正史)
(「由利・三津木探偵小説集成2」)柏書房

「由利・三津木探偵小説集成2」

「幻の女」(横溝正史)
(「幻の女」)角川文庫

「幻の女」角川文庫

叫び声を聞いた三津木俊助が
飛び込んだホテルの部屋には、
タオルで簀巻きにされた上に
胸を抉られ、
さらには腕を切断された
女の惨殺死体があった。
現場には米国で
殺人を繰り返していた
「まぼろしの女」の血文字が
残されていた…。

横溝正史による、
由利麟太郎・三津木俊介
コンビ・シリーズ
の中篇作品です。
戦前の昭和12年発表であり、
この時期の横溝作品特有の、
何でもありの面白さでいっぱいです。

【事件簿11 「幻の女」】
〔事件捜査〕
由利麟太郎…私立探偵。
三津木俊助…新日報社社会部記者。
等々力警部…警視庁警部。
〔事件関係者〕
八重樫麗子
…アメリカ帰りのジャズ・シンガー。
 ホテルで斬殺される。
 米国より凶悪犯罪者「幻の女」
 (ファントム・ウーマン)であるという
 情報が入ったが、不明。
鈴村珠子
…麗子の秘書。
「黒衣の女」
…三津木俊助を襲撃した謎の女。
ビリー
…「黒衣の女」の手下。混血児。
「覆面の踊子」
…謎の踊り子。
籾山四郎
…子爵。八重樫麗子と何らかの関係が
 あり、怪しい行動を取る。
久美子(怪少女)
…子爵が引き取って養っている娘。
 男装して「及川隆哉」を名乗る。
有井
…サーカスの団員。体格のよい男。
 黒人「アリ」に変装し、
 久美子を手助けする。
籾山京子
…子爵の姪。同居する久美子に
 敵対心を抱く。劇場で殺害される。
〔事件の概略〕
⑴及川隆哉がホテル滞在中の
 八重樫麗子を監禁・脅迫。
⑵八重樫麗子左腕を切断され、
 殺害される。
⑶K劇場において京子殺害される。
⑷三津木、久美子、有井の乗る車が
 「黒衣の女」に襲撃される。
 三津木死亡。
 久美子・有井は拉致される。

本作品の味わいどころ①
殺人鬼幻の女、それをも凌ぐ殺人魔

アメリカでは
ファントム・ウーマンと呼ばれ、
「女のくせに人を殺すこと、
大根を切るくらいにしか
心得ていない」という希代の殺人鬼・
「幻の女」。
本作品はこの「幻の女」と
由利・三津木コンビの
対決かと思いきや、
それと目されている女が
いきなり惨殺されます。
冒頭に登場する怪美少女は、
その殺人鬼さえ手玉にとる
極悪殺人魔か?
女殺人鬼と美少女殺人魔の
謎めいた存在が、
読み手を作品世界に釘付けにして
離しません。

さらには
「覆面の踊子」「黒衣の女」までが登場し、
まるで女殺人者の
一大パーティの様相を呈してきます。
もっともそれは見せかけであり、
そんなに女殺人鬼がゾロゾロ登場したら
もはやミステリではなくなります。

本作品の味わいどころ②
主役兼探偵役、三津木の活躍と死亡

開始数頁ですでに
三津木対怪美少女の対決が始まります。
そして「幻の女」らしき女の死体の発見、
怪美少女の正体を突き止めての
再対決と、本作品は新日報記者
三津木俊助の冒険が目白押しです。

それだけではありません。
怪美少女の身柄を拘束したと思えば、
次の瞬間には逆に拉致されます。
そうこうしているうちに
「黒衣の女」の乱入に遭い、
あえなく銃殺されてしまいます。
ついに俊助最後の日か?

敏腕新聞記者・三津木俊助の
獅子奮迅の活躍と衝撃的な死亡が、
読み手を作品世界に釘付けにして
離しません。

本作品の味わいどころ③
京子と久美子、籾山家の養女の暗躍

「幻の女」と何らかの関係があり、
自分の過去を必死で隠そうとしている
富豪・籾山子爵。
その養女・京子と姪・久美子が、
それぞれ謎の行動を起こします。
京子が三津木を頼って
情報提供を働き掛けると、
久美子はそれを知って隠密行動に走る。
久美子には何やらいわくありげな
謎の友人(手下?)がいる。
ともにうら若き乙女である
京子と久美子の、
秘密裏に進む対立関係と運命の分岐は、
読み手を作品世界に釘付けにして
離しません。

文庫本にして約130頁の中編ながら、
長編並みの密度の濃い展開と
冒険活劇が繰り広げられます。
現代の若い人たちには
とうてい受け入れられそうにない
世界なのですが、
昭和の時代(特に戦前)のミステリーとは
このようなものなのです。
ぜひご一読を。

(2019.12.16)

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(2024.6.19)

〔「由利・三津木探偵小説集成2」〕
夜光虫
首吊船
薔薇と鬱金香
焙烙の刑
幻の女
鸚鵡を飼う女
花髑髏
迷路の三人
付録:夜光虫(未発表版)
編者解説(日下三造)

〔角川文庫「幻の女}〕
幻の女
カルメンの死
猿と死美人

〔関連記事:由利・三津木シリーズ〕

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