「夜長姫と耳男」(坂口安吾)②

綺麗です。全然グロテスクではありません。

「夜長姫と耳男」(坂口安吾)
(絵:夜汽車)立東舎

古典的文学と現代イラストの
コラボレーションである
立東舎刊「乙女の本棚」シリーズに、
坂口安吾まで登場してしまいました。
それも「夜長姫と耳男」。
前回本作品について
「血なまぐさい素材と
グロテスクな表現描写に縁取られた
摩訶不思議な愛情物語」と
書きましたが、本書のイラストは
どこまでそれに迫っているのか
期待してページをめくりました。

綺麗です。
全然グロテスクではありません。
夜長姫も残酷さなど微塵も感じさせず、
お人形のようなかわいらしさです
(和服に骸骨が描かれていますが)。

耳男が籠もって仏像を彫る小屋も、
蛇や蜘蛛の巣窟なのですが、
それらはまるで模様のように描かれ、
至って綺麗です。

高楼の天井に大量のヘビを吊し、
その中に姫と耳男が佇む場面も、
醜悪さは一切感じられず、
むしろ美しすぎるくらいです。

文章だけを読んだときに感じた印象とは
まったく異なりました。
血なまぐささもグロテスクさも
消えてなくなっています。
といよりも坂口安吾の影形がそこからは
まったく感じられないのです。
これは失敗作?
いやいや決してそうではありません。

イラストレーター・夜汽車の構築した
世界は、「美」なのでしょう。
原文の持つ坂口安吾の臭気を一掃し、
夜長姫が耳男に傾けた愛情のみを
クローズアップさせたものと
考えられます。

確かに、この作品世界を
いかに表現しようとも
イラストでは表現しきれないのかも
知れません。
表現し得たとすれば、
誰もそんな本など
二度と表紙を開こうとしないでしょう。
それよりも原文を覆っている醜悪さの
影に隠れてしまっているものを
丹念に掬い上げ、
読み手の前に再提示することの方が、
本作品においては
必要なのだと考えられます。

本作品、かつて
漫画になったこともありました。
近藤よう子作
(ビックコミックから刊行された後、
なんと岩波現代文庫から
復刊されたという異色の経路)と、
凛野ミキ作(一友社刊)です。
視覚化してみたいと
誰しも考えてしまう作品なのでしょう。

綺麗すぎる坂口安吾。
新しい発見があります。
ぜひ原文を読んだ上でご一読を。

※本作品ですが、
 同じ「乙女の本棚」シリーズに
 起用されているイラストレーターの
 ホノジロトヲジ
 (夢野久作「瓶詰地獄」
 泉鏡花「外科室」を手がけた)では
 どうだったのでしょうか。
 本作品はそちらの路線のような
 気がしますが…。

(2019.12.26)

Stefan KellerによるPixabayからの画像

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