「朝の少女」(マイケル・ドリス)

あるがままにあるべき姿にすくすくと伸びてゆく姉弟

「朝の少女」
(マイケル・ドリス/灰谷健次郎訳)
 新潮文庫

自然豊かな島に暮らす姉弟。
姉は誰よりも早起きであるため
「朝の少女」と呼ばれる。
夜が大好きな弟は
眠る必要がなくなってしまい
「星の子」と呼ばれる。
両親、そして
自然との対話を通して、
二人は少しずつ
大人になっていく…。

作品の舞台は
とある時代のとある南の小さな島。
文明を持たず、
人々がまだ何も身に纏うことなく、
自然のままに生活していた時代です。
姉はおそらく
現代でいえば中学校2~3年生、
弟は小学校5~6年生くらいでしょうか。

「朝の少女」は
明らかに思春期を迎えています。
自己と他者の違いが気になり始めます。
「自分って何なんだろう?
 自分の手なら、
 すみからすみまで知っている。」

でも、鏡がないために、
自分がどんな顔をしているのかが
わからず悩むのです。
そんな娘に対して父親は、
「私の目の中をのぞいてごらん。
 父さんの頭の中に住んでいる、
 このかわいい女の子はだれなの?」

「朝の少女」は
確かに成長しています。
弟である「星の子」を、
「あの子はどうして、こんなふうに、
 あたしとあべこべに
 ものを見るように
 なってしまったのだろう」
と、
突き放して考えています。
しかしやがて自分とは違う弟を
受け入れることが
できるようになります。

「星の子」もまた成長しています。
家族はそれを見守っています。
夜の浜に一人で探検に
行こうとした「星の子」に、
父親は「お前はもう
子どもじゃない」と理解を示し、
姉は心配で後を追い掛け、
「おとなにならなければだめ」と
教え諭し、
母親は彼の心の中で
「あなたの学んだことを
教えてちょうだい」と優しく微笑む。
家族のあるべき姿がそこにあります。

そして「星の子」は一つ大人になります。
自分に対して口うるさかった姉を、
ついには
「いつもそばにいてくれる人」と
呼ぶようになるのです。

自然と同化したり、
死者に語りかけたり、
人間がまだ自然の一部であったときの
幸せな時代です。
あるがままに、あるべき姿に、
すくすくと伸びてゆく姉弟。
人が生きるとは何か、
作品は私たちに
問いかけてくるようです。
中学生の子どもたちに、
そして大人たちに、
自信を持ってお薦めできる一冊です。

なお、最後の2ページに、
すべてを覆すような
衝撃的な記述が待ち構えてあります。
一瞬、気持ちが重苦しくなりましたが、
それゆえ、本作品に描かれている
姉弟の生きる姿が、
より輝きを放っているのだと
私は考えます。

(2020.1.1)

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