「マジカル・ドロップス」(風野潮)

予想を裏切る展開、面白さが止まりません

「マジカル・ドロップス」(風野潮)
 光文社文庫

42歳の主婦・菜穂子は
夫とすれ違い、
息子と娘には無視され、
疲れた日々を送っていた。
ある日、タイムカプセルに
入れられていた
缶入りドロップを舐めたところ、
何と15歳の自分に戻っていた。
ドロップの効き目は
2時間17分…。

この魔法のドロップは、
菜穂子の中学校卒業時、親友・真由美が
タイム・カプセルに封印した、
普通の缶入りドロップでした。
「十五歳に戻れる魔法の薬、
効き目は二時間十七分」と記された
そのドロップが、27年後、本当に
魔法を引き起こすという設定です。
あまりのばかばかしさに
「失敗した!」と、本書を
投げ出してしまうところでした。
しかし、途中から
その面白さにぐいぐい引き込まれ、
一気に読んでしまいました。

本作品の面白さ①
43歳のおばさんが15歳に戻って
親友の夢を叶える

ドロップを封印した真由美は、
その直後に事故で亡くなったのです。
高校生になったら
一緒にバンドを組む約束を
果たせないまま
菜穂子は43歳になっていたのです。
15歳に戻った彼女は、
ひょんなことから高校生バンドに
ボーカリストとして
加わることになります。
1回につき2時間17分しか
15歳の姿でいられない菜穂子は
どのようにバンドのボーカルを
こなしていくのか?
そしてそのバンドのドラマーは
菜穂子の息子・要。
正体がばれずにすむのか?
面白さが止まりません。

15歳の姿になったとはいえ、
43歳のおばさんが高校生バンドの
ボーカルになる設定は
いくら何でも無理があるのでは?
と思いきや、扱う楽曲は
THE CLASHの「I Fought the Law」、
U2「VERTIGO」、
QUEEN「I was born to love you」
など、現在もTVで流れたり
カヴァーされたりしている
洋楽の名曲です。これなら納得。

本作品の面白さ②
15歳に戻った母親が
息子・娘と絆を取り戻す

15歳の姿で外出したときに限って
娘の茜と出くわしてしまう菜穂子。
しかしその中で、
娘が今、何に夢中になっているかを
知ることになるのです。
息子とも、そして娘とも
絆を取り戻していく菜穂子。
面白さが止まりません。

本作品の面白さ③
15歳を追体験したおばさんが
自分自身を変えていく

何度か15歳の自分を
追体験していくうち、
43歳としての菜穂子自身が
少しずつ変容していきます。
他人と話すことに自信を持ち、
積極的に行動しようとします。
最後にはおばさんたちのバンドを
結成するまでになるのです。
やはり、面白さが止まりません。

魔法で若返る筋書きの多くは、
秘密を誰にも
知られないようにするために
主人公が悪戦苦闘するというのが
一般的でしょうか。
本作品は最初から親友・美智に知られ、
最後には茜、要、そして夫にまで
自ら打ち明けてしまいます。
全てにおいて予想を裏切る展開です。
風野潮のファンタジー、
いやはや、面白さが止まりません。

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(2020.1.6)

Stefan KellerによるPixabayからの画像

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