「万年青」(矢田津世子)

彼女は秋田生まれの秋田美人

「万年青」(矢田津世子)
(「百年文庫049 膳」)ポプラ社

笑顔のすてきな福子は
ご隠居(福子の夫の祖母)自慢の
可愛いお嫁さん。
しかし他の孫嫁たちは
無理にご隠居に
取り入ろうとしている。
福子は彼女達の気持ちが
わからなかった。
ある日、孫娘たちは
ご隠居の慰労会を催すという…。

笑顔のすてきな女性、いいですよね。
私などは笑顔がすてきな女性であれば
すべてが許せてしまいます。
でも本作品の姑さんは、
この笑顔がすてきな福子さんに
こう言います。
「あなたって、
 笑っているばかりが能なのね。
 少しは、おばあさまのことを
 してあげたらどうなの。」

無理もありません。
餅菓子を持参する
孫嫁がいたかと思えば、
懐石料理をご馳走する孫嫁もいます。
みなご隠居のご機嫌取りなのです。
福子は、それが悲しく思えるのです。
「みんなの心遣いを
 喜んで受けている隠居が、
 何か、その心遣いを
 無理強いされているように
 見えてならない。
 隠居が喜べば喜ぶほど、
 哀しい気がした。」

でも、いや、だからこそ、
福子は自分のスタンスを
崩さないのです。
彼女がご隠居と共に過ごすときは、
お茶を一緒に飲んだり、
おでんを振る舞ったり
することぐらいなのです。

なぜ他の孫娘たちは
ご隠居に取り入ろうとするのか?
無理もありません。
ご隠居がかつて
(福子が同席していないとき)、
自分が死んだときに何が欲しいと
孫娘たちに問いかけたら…。
屋敷と別荘が欲しい、
一生暮らせるだけのお金が欲しい、
吉祥寺の土地が欲しい、
会社の株が欲しい、…。
何のことはない、
財産めあてのご機嫌取りなのです。

ご隠居は同じ問いを
福子に投げかけます。
福子は…。
それはぜひ本作品を
読んでいただきたいと思います。

岡本かの子にしても、
宇野千代にしても、
女性の文壇人は、
新しい女性像、自立する女性像、
男に負けない女性像を
打ち立てようとしているような
気がします。
でも、矢田津世子は違います。
どこまでも日本女性の気立ての良さを
前面に押し出したような女性像を
描いているのです。
男の立場からすれば、
嫁にするならこうした女性です
(うちの嫁は
自立する強い女性ですが)。

それもそのはず、
彼女は秋田生まれの秋田美人。
気立ても良ければ器量も良い。
写真で見る限り、
ほれぼれとする美女です。
生きていれば現在110歳。
わずか37歳で早世したのが
惜しまれます。

(2020.1.7)

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