読み手を幸せな気分にしてくれる童話
「月夜とめがね」
(小川未明)(絵:げみ)立東舎

おだやかな月のいい晩のこと、
静かな町のはずれに住む
おばあさんのもとへ、
めがね売りが来る。
おばあさんが
そのめがねをつけると、
若い頃のように
いろいろなものがよく見えた。
少したった後、
次には見知らぬ少女が
訪ねてきて…。
絵本にするにはちょうどいい、
読み手を幸せな気分にしてくれる
童話です。
立東舎刊「乙女の本棚」シリーズにしては
まっとうな作品をチョイスしています。
この、2番目に現れた少女、
足を怪我していると
泣いて戸をたたいたのですが、
おばあさんが例のめがねをかけてみると
その姿は胡蝶であることが
わかったのです。
おばあさんは機転を利かせて
裏庭の花園へと案内するのですが、
気がつくと
少女の姿は見えなくなっていたのです。

夜更けにやってきた
「めがね売り」と「怪我をした少女」。
現実世界では怪しい存在としか
いいようがありませんが、
童話の中ですからいわゆる
「妖精」のようなものと考えられます。

おばあさんは夜更けまで「ただ一人、
窓の下にすわって、
針仕事をして」いたのですから、
これまでも勤勉に、
そして慎ましやかに
暮らしてきたことがうかがえます。
そしてその仕事をしながら
「離れて暮らしている
孫娘のことなどを、
空想して」いたのですから、
思いやりの深い、
優しい性格であることもわかります。

「めがね売り」は、
心根の優しいおばあさんにとって
最も役立つであろうめがねを
贈ったのです。
それによっておばあさんは
「幾十年前の娘の時分」と同じように
はっきりとものが
見えるようになったのです。
これは「妖精」がおばあさんに
善を施したものと見ることができます。
そのめがねによって、
おばあさんは怪我をした少女が
実は傷ついた胡蝶であることを
理解できたのです。
そして最も適切な治療として
花園へと導いたのです。
こちらはある意味、
おばあさんが「妖精」へお礼をしたものと
考えることができます。
善は人から人へと回っていきます。
誰かに与えた善は、
その誰かからまた別の誰かへと
受け継がれるのでしょう。
そんなことをふと考えてしまいました。
夢野久作の「瓶詰地獄」、
泉鏡花の「外科室」など、
トリッキーな選択の目立つ
「乙女の本棚」シリーズですが、
新美南吉「赤とんぼ」同様、
絵本らしい絵本です。
中学生に薦めたい一冊です。
※もっとも「月夜とめがね」の絵本は、
これまでにもいくつか
出版されています。
それらと本書がどう違うか、
どういう特徴があるか、
時間があれば比べてみたいと
思います。
(2020.1.13)

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