小弥太の脳裏に浮かんだ選択肢は?
「光る道」(檀一雄)
(「百年文庫016 妖」)ポプラ社

宮廷の守護にあたる
衛士・小弥太は、
故郷の秋の風情を懐かしむ
独り言をつぶやいていた。
それを御簾の影から聞いていた
三の姫宮は、
わたしを負ぶってそこまで
逃げてくれと小弥太に命じる。
次の日の夕暮れ、
小弥太は姫を略奪する…。
下男とやんごとなき姫の恋の逃避行は、
映画であれば「ローマの休日」から
「スター・ウォーズ」まで
数多く存在します。
最もロマンチックな
男女のシチュエーションなのでは
ないでしょうか。
堂々と姫を奪取した小弥太は、
姫を負ぶい
韋駄天のように駆け抜けます。
そして、姫の所望するものを
次から次へと与えていきます。
朝が訪れ、二人は民家へ乗り込み、
そこで朝食、
そして夕食の支度をするのです。
「女は男の夢を模索しながら
かえって数々の生活を
さぐりあてていたようだし、
男は女の好奇心をいぶかりながら、
空翔けるほどの美しい夢を
つかみとったような気持でいた。」
しかし「美しい夢」はここまでです。
日が暮れて戻ってきた
家主夫婦と二人は遭遇します。
ここからは血なまぐさい展開です。
襲いかかってきた亭主を
斬り捨てた小弥太は、
その女房の色香に惑います。
それに対して
「冷やかな」表情を見せる姫。
ここで小弥太は迷うのです。
「大鉈を振りあげた。が、
その鉈はたそがれの宙に迷った。
三の姫宮を斬り殺して
この女と逃げる…。
その道が白くスルスルと
たそがれの幽暗の中に
かけ渡ってゆくように思われた」。
小弥太の脳裏に浮かんだ選択肢は?
選択肢①姫と暮らし、女を下女とする
真っ先に浮かんだ選択肢でしょう。
小弥太は女に「オレの下働きになれ」と
迫ります。
しかし、女は自分も殺せといい、
姫も軽蔑の視線を彼に向けます。
選択肢②女を殺し、姫と暮らす
高貴な姫と、
このまま「美しい夢」の継続です。
ところがその幻想は、
男と一戦交えたことにより、
半ば打ち破られているのです。
それゆえ次の選択肢が
浮上してきたのでしょう。
選択肢③姫を殺し、女と暮らす
身分の同じものどうし、
見通しの持てる
極めて現実的な選択肢といえます。
さて小弥太の選択はいかに?
ぜひ読んで確かめてください。
「磬を叩くような三の姫宮の声が、
次第に細り、ヨシキリのその
かまびすしい啼声のなかにまぎれ
消えてゆくのである」と結び、
ロマンスもスプラッターも
終わりを告げます。
(2020.1.14)

