これこそ「乙女の本棚」の真骨頂
「死後の恋」(夢野久作)
(絵:ホノジロトヲジ)立東舎

やはり出ましたか。
「乙女の本棚」シリーズに
「瓶詰地獄」が取り上げられたとき、
もし再び夢野作品が登場するとすれば、
間違いなく「死後の恋」だろうと
確信していました
(「ドグラ・マグラ」は長編なので無理)。
では、本作品のエロ・グロ部分は
一体どのように描かれているのか?
やはり直接的な表現は
避けてあります(当然です)。

本書の特徴①
黒を基調としたダークなデザイン
本作品の暗く沈鬱な雰囲気を
醸し出すために、
イラストはすべて黒を基調とした
ダークなデザインとなっています。
語り手の元ロシア兵も
黒一色の出で立ち、
料理の皿も黒、
中には黒地に黒のイラストもあり、
判別がつきにくいものさえあります。
また、文章部分もところどころが
黒地に白文字で、
作品の持つおどろおどろしさを
さらに際立たせています。


本書の特徴②
あくまでもイメージ優先
エロ・グロ的内容の強い作品ですので、
写実的に描いてしまえば
もはや出版できないでしょう。
すべてはイメージ優先の
イラストとなっています。
仲間の兵士が虐殺されて
木に吊されている場面も、
それを暗示させるようなイラストで
とどめています。
クライマックスの
リヤトニコフの屍体については、
彼女の虚ろな眼差しを載せることで
それを表現しています。

本書の特徴③
醜悪ではなく美しさ
基本的にはエロ・グロ部分を
すべて何重ものオブラートにくるみ、
可能な限り「美しさ」まで
昇華させているのです。
文章を読まずに
イラストだけを眺めていると、
一つのテーマに沿って並べられた
美術作品のようにも思えてきます。
本作品は、夢野が並べた素材が
エロ・グロなのですが、
その表面の奥に、
えもいわれぬほどロマンチックな
ストーリーが広がっていたことに、
改めて気づかされました。
これこそ「乙女の本棚」の真骨頂です。
単なる「絵本」とは違うのです。
どう頑張っても絵本になど
なろうはずのない作品を取り上げ、
現代的なイラストで
作品をデコレーションし、
それまで気づかなかった作品の魅力を
浮かび上がらせる。それにより、
文学に縁のなかった若い人たちに
その素晴らしさを訴える。
本書はまさにそのコンセプトが
最大限に生かされた
素晴らしい一冊となっています。
さあ、次は何が出るのか?
「乙女の本棚」シリーズから
目が離せません。
(2020.1.20)
