「源氏物語 桐壺」(紫式部)

「愛」と「権力」の狭間に立たされた帝の苦悩

「源氏物語 桐壺」(紫式部)
(阿部秋生校訂)小学館

「源氏物語」小学館

帝の寵愛を独り占めしていた
桐壺の更衣は
それゆえに周囲の
女御たちの反感を買い、
さまざまな嫌がらせを受ける。
やがて更衣は
美しい皇子・光源氏を生む。
更衣は病に倒れるが、
源氏は美貌とともに
学問や芸能に
秀でた才を発揮する…。

世界に誇る日本古典の代表、
いや日本文学の一大傑作である
「源氏物語」
千年の時代を超えて、
その魅力は今なおいささかも
衰えることがありません。
全五十四帖に及ぶ長大なその物語の
前奏曲となるのがこの「桐壺」です。
源氏誕生から十二歳までが
描かれているのですが、
この帖での主役は源氏ではなく、
その父・桐壺帝、
そして母・桐壺の更衣です。
帝の純愛と悲恋、
嫉妬に駆られる人間の浅ましさを
描いているように思われますが、
決してそのような
単純なものではありません。

桐壺帝に何人の妃がいたのかは
明確にされていませんが、
そのモデルとなった嵯峨天皇には、
24人が仕えていたことが
明らかになっています。
その妃たちはすべて
権力者の家柄出身の女性たちであり、
その家柄に応じた愛し方を
しなければならなかったのです。
帝が妃を愛する行為は、
本来恋愛ではなく
政治活動の色合いが強かったのです。

そうした中で、
決して位の高くない家の出の更衣を
寵愛することは、
政治の力学を歪めることに
繋がるのです。
妃たちは家を代表し、
帝に仕えているのであり、
彼女たちの感じた感覚は
単なる「嫉妬」に止まらず、
自らの家の存亡に関わる「一大事」として
受け止められたはずです。
当然、娘を宮中へ送り出した高官たちも
心穏やかでいられるはずはありません。
宮中を揺るがす大事件だったのです。

帝の苦悩もそこにあります。
帝にとって桐壺の更衣は、
何十人も迎え入れた妃の中で初めて
真の愛情を注ぐに至った女性なのです。
しかし位と相応しない愛情を注ぐことは
帝としての政務に反することであり、
自らの存在基盤を危うくすることにも
なりかねないのです。
帝は決して絶対君主ではなく、
微妙なバランスの上に君臨している
権力者にすぎないのです。

「愛」と「権力」。
世の男の多くが求めるこの二つは、
この時代、得てして相反するものとなり、
それゆえ葛藤が生じるのです。
帝の苦悩は「愛」と「権力」の
狭間に立たされたが故のものであり、
それは源氏物語全編に
通じるテーマでもあるのです。

桐壺帝の子・光源氏は
臣下に下るものの、
やがていくつもの「愛」を掴み取りつつ
大きな「権力」も手に入れていきます。
その物語の序章として、
「桐壺」は見事なまでに完成された
第一帖となっているのです。

※源氏:誕生~12歳
 藤壺:6~17歳
 葵の上:5~16歳

(2020.1.25)

ジュンPさんによる写真ACからの写真

【源氏物語】
01 桐壺
02 帚木
03 空蝉
04 夕顔
05 若紫
06 末摘花
07 紅葉賀
08 花宴
09
10 賢木
11 花散里
12 須磨
13 明石
14 澪標
15 蓬生
16 関屋
17 絵合
18 松風
19 薄雲
20 朝顔
21 少女
22 玉鬘
23 初音
24 胡蝶
25
26 常夏
27 篝火
28 野分
29 行幸
30 藤袴
31 真木柱
32 梅枝
33 藤裏葉
34 若菜上
35 若菜下
36 柏木
37 横笛
38 鈴虫
39 夕霧
40 御法
41
00 雲隠
42 匂兵部卿
43 紅梅
44 竹河
45 橋姫
46 椎本
47 総角
48 早蕨
49 宿木
50 東屋
51 浮舟
52 蜻蛉
53 手習
54 夢浮橋

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