「ロスト・トレイン」(中村弦)

自分の心の中に列車が駆け抜けていった

「ロスト・トレイン」(中村弦)
 新潮文庫

廃線マニアの青年・牧村と
鉄道マニアの老人・平間は、
世代を超えて交流を重ねる。
ある日、平間は
「まぼろしの廃線跡」の
話をしたあと、
忽然と姿を消す。
平間のテツ仲間の
若い女性・菜月とともに牧村は、
平間の行方を捜すために…。

タイトルに引かれて読んでみました。
予想通りマニアックな小説です。
以前取り上げた
銀林みのる「鉄塔 武蔵野線」
勝るとも劣らないオタク度です。
鉄道マニア小説とでもいえましょうか。
単なる「鉄道」小説なら、
西村京太郎はじめ
世の中にはたくさんあるのですが、
本作品は「鉄道マニア」小説なのです。

さて、本作品の特徴は、
マニアックな素材だけでなく、
「緻密な構成」と「丁寧な描写」の
2点にあります。
その2つで読み手をゆっくりと、
各駅停車のような速度で
作品世界へと引きつけていきます。
流れに乗ってしまったら、
あとは一気に読み進めるだけで、
途中下車などできそうにありません。

まず、「緻密な構成」の素晴らしさです。
丹念に取材を重ねた記述が
そこここにちりばめられているのです。
特に謎のキーワード
「キリコノモリ」について
文献調査を行う件は、
リアルな迫力が感じられます。
描かれている世界が
強い現実性を帯びています。
そしてそれが終末部で登場する
異世界を際立たせているのです。

続いて、「丁寧な描写」の見事さです。
文章に押しつけがありません。
すんなり読み手の内面に入ってきます。
そして奥村・平間の二人を細部まで
きちんと描き切っています。
二人がすぐ身近にいるように
迫ってきます。
だから読み手が
作品世界へと引きこまれていくのです。

「キリコノモリ」という
謎の言葉を手がかりに、
二人は東北へと向かいます。
探し当てた「まぼろしの廃線跡」で
二人が見たものは何か?
ぜひ読んで確かめてください。

若い女性が野宿を前提とした旅に、
まだ交際まで進んでいない男性と一緒に
出かけるのか?という
突っ込み所ももちろんあります。
しかし、そうしたことなど
気にならないくらい、
読み手を引きつける
エネルギーに満ちた小説です。
読んだあとには、自分の心の中に
列車が駆け抜けていったような
爽快感を感じます。
中学校3年生に薦めたいと思います。

※中村弦。
 初めて読んだ作家ですが、
 日本ファンタジーノベル
 大賞受賞作家とのこと。
 他の作品も読んでみたいと
 思いました。

(2020.1.27)

Free-PhotosによるPixabayからの画像

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