見たかアメリカ、これが日本文学だ!
「少年」(谷崎潤一郎)
(「刺青・秘密」)新潮文庫
「少年」(谷崎潤一郎)
(「潤一郎ラビリンスⅠ」)中公文庫
「私」とガキ大将の仙吉は、
西洋屋敷に住む信一、そして
その姉・光子と仲良しになる。
「私」と仙吉・信一の三人は
一緒になって、
光子をいじめ抜いていた。
ある夜、「私」は光子に誘われ、
離れの秘密の部屋へと
忍び込んだ。そこには…。
昨日、
バーネットの「秘密の花園」を取り上げ、
なぜ日本の明治の文豪たちは
こうした少年少女の成長物語を
書かなかったのかと疑問を呈しました。
いやいや、実はあるのです。
「秘密の花園」同様、
少年2人、少女1人の成長物語が。
何を隠そう、谷崎潤一郎の初期の名作、
その名も「少年」。
さて、光子に誘われて忍び込んだ先で
待ち受けていたのは、
裸で手足を縛られ、
光子から蝋燭を垂らされている
仙吉だったのです。
その夜以来、「私」と仙吉は、
いたぶる側といたぶられる側が
入れ替わり、
光子の従順な僕となるのです。
ああ、なんという衝撃的な
少年少女の成長物語。
これぞ大谷崎が放った、
アメリカ児童文学に拮抗しうる
名作中の名作です。
「秘密の花園」は邦訳されたタイトルが
どことなく怪しげですが、
本作品は作家名さえ伏せれば
健全そのもの。
でも内容はしっかり不健全です。
「秘密の花園」は昼に
少年少女が忍び込む庭が
素材となっていますが、
本作品は大胆にも真夜中に
少年少女が忍び込む秘密の部屋が
舞台です。
「秘密の花園」は死を垣間見た
メアリとコリンが
生の喜びを見つける物語ですが、
本作品は三人が
性の入り口を見つける物語です。
「秘密の花園」はメアリとコリンが
陰鬱な性格から少年少女らしい
快活さを取り戻す物語ですが、
本作品は三人がSとMの立場を
逆転させる物語といえます。
ああ、なんという衝撃的な
少年少女の成長物語、いや性徴物語。
見たかアメリカ、これが日本文学だ!
などと、
アメリカで賞賛されている古典文学と
日本の谷崎の耽美で妖艶な作品を、
強引に結びつけて
戯言を書き綴ったりしてはいけません。
それでも「秘密の花園」が
アメリカで連載されたのが1910年。
谷崎が「少年」を発表したのが1911年。
ほぼ同時期に誕生した
作品どうしなのです。
比較したくなるのが人情というもの。
まさか谷崎が
バーネットの向こうを張って
書いたものとは思えませんが。
読書をしていると、
全く関係のない作品どうしに
つながっている、見えない糸が
見えてしまうことがあります。
それが読書の楽しみの一つです。
皆さん、ぜひ両作品を
比べ読みしてみてください。
(2020.2.3)
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