「展覧会の絵」(セレンザ)

偉大な芸術家たちの心温まる友情

「展覧会の絵」
(セレンザ/藤原千鶴子訳)
(絵:キッチェル)評論社

建築家兼画家の
ハルトマンが急死し、
親友である
作曲家・ムソルグスキーは
自宅に閉じこもる。一方、
もう一人の親友・スタソフは
ハルトマンの死を悼み、
遺作展を開く。
スタソフはムソルグスキーを
その展覧会へと
連れ出そうとする…。

ムソルグスキーの名曲「展覧会の絵」。
そのモチーフとなったのは、
友人ヴィクトル・ハルトマンの
遺作展を歩きながら見た
10枚の絵であったことは有名です。
しかしそこにこんな素敵な物語が
あったとは知りませんでした。
作曲家・ムソルグスキー、
建築家・ハルトマン、
芸術評論家・スタソフの心温まる友情が、
史実に基づいて描かれています。
少し調べてみました。

1870年初頭、ムソルグスキーは
ハルトマンと出会い、交友を結びます。
しかし1873年8月4日、
ハルトマンは脳動脈瘤で
急死するのです。
「彼の体の異常に
気づく機会がありながらも
それを見過ごし、
友人として何もできなかったことを
非常に悔やんでいた」。
ムソルグスキーの慚愧の念が、
残された手紙などで
明らかになっています。
一方、スタソフは、
ハルトマンの作品の価値を
世に知らしめると同時に、
彼の遺族への資金援助のために、
彼の遺作展を開くことにしたのです。
1874年2月に開かれた展覧会には、
実に400点あまりの作品が
集められました。

共通の友人を失った
ムソルグスキーとスタソフ。
一方は悲しみの淵に突き落とされ、
一方は現実的に支援する。
どちらも友情の表れです。
そしてその悲しみの淵から這い上がり、
音楽によって親友の偉業を
世界の人々の記憶にとどめようとした
ムソルグスキー。
音楽に関心のない子どもたちでも、
なにがしかの思いは
湧き上がるのではないでしょうか。

挿画はすべて額縁に納められた
絵画を模してあり、
ページをめくって読み進めると、
あたかも遺作展の会場を歩き回る
ムソルグスキーになった気分に
浸ることができます。

こんな素敵な絵本が
存在していたなんて。
出版年は2009年。
約10年間も知らずにいたなんて。
その分、
巡り会った感激に浸っています。
中学生に薦めたいと思います。
ここから読書、
そして音楽への興味が高まるのであれば
しめたものです。

※ムソルグスキーの思いが
 結実したのでしょう。
 元来ピアノ曲であった
 「展覧会の絵」は、
 ラヴェルをはじめ、
 さまざまな音楽家たちが
 魅力的なアレンジを施して、
 現在百花繚乱の様相を
 呈するまでになっています。

※ちなみに私の愛聴している
 「展覧会の絵」のCDを
 3点あげておきます。

①アバド(指揮)ベルリン・フィル
②クリヴィヌ(指揮)
 ルクセンブルク・フィル
③カヒッゼ(指揮)トビリシ交響楽団

(2020.2.5)

igorda888によるPixabayからの画像

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