「源氏物語 空蝉」(紫式部)

女性の「良さ」を見極められる光源氏

「源氏物語 空蝉」(紫式部)
(阿部秋生校訂)小学館

「源氏物語」小学館

空蝉から拒絶された源氏は、
一層恋慕の思いを募らせる。
三度目の訪問で、
再び寝室に忍び込んだ
源氏であったが、
空蝉は薄衣を脱ぎ捨てて
逃げ去る。
それと気づかぬまま、
源氏は空蝉の継娘である
軒端の荻と
愛を交わしてしまう…。

源氏物語第三帖である「空蝉」。
ここで源氏が関係を持つのは、
源氏の愛を拒否する女性・空蝉の
継娘・軒端の荻。
ところがこれは人違い故の浮気。
つまり空蝉だと思って忍び込んだら
実は別人だった、
でも今さら帰るのもみっともないから
寝てしまえ、という
とんでもない話なのです。

ここでの読みどころは、
平安時代の男女の出会いの
特殊性でしょう。
当時の貴族の女性は、
人前には姿を現しません。
それゆえ、男は女の顔や姿を
盗み見るしかなかったのです。

しかも、夜が更けて
蔀戸(しとみど)が下ろされると、
外から入る月光も遮断され、
完全な闇の世界になってしまうのです。
相手を間違えても
仕方のない状況なのです。
ただし、空蝉は源氏が着物にたきこめた
香の薫りを覚えていたので、
とっさに気付き、脱出することが
可能だったのです。

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空蝉と軒端の荻の二人を盗み見した
源氏の感想もまた読みどころです。

空蝉については
「目すこしはれたる心地して、
 鼻などもあざやかなる
 ところなうねびれて、
 にほはしきところも見えず。
 言ひ立つればわろきによれる
 容貌
(かたち)を、
 いといたうもてつけて、
 このまされる人よりは心あらむと
 目とどめつべきさましたり。」

(「瞼が少し腫れぼったく、
 鼻筋などもすっきりせず老けてみえ、
 つややかさもありません。
 どちらかといえば
 器量のよくないほうですが、
 その欠点を
 たいそう上手につくろっていて、
 もう一人の器量よしの若い娘よりは、
 心の嗜みが深そうで、
 誰の目も惹きつけそうな
 様子をしています。」 瀬戸内寂聴訳)

一方、軒端の荻については
「いよいよほこりかにうちとけて、
 笑ひなどそぼるれば、
 にほひ多く見えて、さる方に
 いとをかしき人ざまなり。」

(「いっそう得意そうにはしゃいで
 賑やかに笑いさざめいている様子が、
 はなやかで色っぽく、
 こちらはまたそれなりになかなか
 魅力があります。」 瀬戸内寂聴訳)

空蝉・軒端の荻どちらの女性に対しても、
源氏は「完璧ではない」と評価しつつも、
その中に女性としての良さを
しっかりと見いだし、
彼女らと交渉を持ったことに
素直に喜びを感じているのです。
不倫を重ねた上に
間違いと気づいてもそのまま
関係を持つ浮気な部分は
現代の感覚ではどうかと思うのですが、
多様な尺度で相手を多角的に評価し、
その「良さ」を見いだせることは
人間としての器の大きさを
感じてしまうのです。
前帖「帚木」での
「雨夜の品定め」をしていた3人とは
まったく違います。

女性の「良さ」を見極められる光源氏。
やはり器の大きな男です。

※源氏:17歳
 空蝉:不明
 軒端の荻:不明

〔前帖〕

〔次帖〕

(2020.2.8)

Pop-sanさんによる写真ACからの写真

【源氏物語】
01 桐壺
02 帚木
03 空蝉
04 夕顔
05 若紫
06 末摘花
07 紅葉賀
08 花宴
09
10 賢木
11 花散里
12 須磨
13 明石
14 澪標
15 蓬生
16 関屋
17 絵合
18 松風
19 薄雲
20 朝顔
21 少女
22 玉鬘
23 初音
24 胡蝶
25
26 常夏
27 篝火
28 野分
29 行幸
30 藤袴
31 真木柱
32 梅枝
33 藤裏葉
34 若菜上
35 若菜下
36 柏木
37 横笛
38 鈴虫
39 夕霧
40 御法
41
00 雲隠
42 匂兵部卿
43 紅梅
44 竹河
45 橋姫
46 椎本
47 総角
48 早蕨
49 宿木
50 東屋
51 浮舟
52 蜻蛉
53 手習
54 夢浮橋

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