1954年発表の本作品、何ともドラマチック
「女中っ子」(由起しげ子)
(「百年文庫025 雪」)ポプラ社
加治木家へ女中を志願して
山形から上京してきた初。
加治木家には
三人の子どもがいた。
真ん中の勝見は、
学校では問題児となっていた。
だが勝見は初になつく。
勝見は家族に内緒で
捨て犬を飼っている、
その秘密を初も共有する…。
タイトルが示すとおり、
女中初と奉公先のひねくれ息子との
心温まる交流の物語です。
しかも起承転結がはっきりしていて、
何ともドラマチックです。
まずは起。
初は家計を助けるため、
自分の意志で
山形から上京するのです。
それも、偶然知り合った
加治木の奥様の手紙を持って。
雇ってもらえるかどうかも確かめず。
身一つで押しかけたのです。
何ともドラマチック。
次に承。
初と勝見の交流が描かれます。
勝見がおねしょしたシーツを
家族に知られないように
密かに洗って乾かす。
勝見の運動会で、
目隠しをして勝見と走り、
一等賞を取る。
そのことで勝見の友達に
ケチをつけられると、
改めて目隠しして
猛スピードで走れることを証明する。
その結果、跳び箱と衝突しても、
跳び箱を吹き飛ばし、
自分はケガ一つしない。
そんな破天荒な行動で、
初は勝見の心を
がっちり掴んでしまいます。
この経緯は、テレビドラマに
よくありがちな展開です。
何ともドラマチック。
そして転。
初が山形へ里帰りした数日後、
勝見は家出をし、初のいる山形へと
家族に内緒で出かけるのです。
当然大騒ぎとなります。
いくつかのすれ違いの後、
初、勝見、奥様は無事再会。
めでたしめでたし。
何ともドラマチック。
最後は結。
幕切れは
めでたしめでたしとはなりません。
冒頭で起きたある事件の結末が
意外な形で決着し、
初は誤解を受け、解雇されます。
でも初は、勝見のことを思い、
自分が罪を被る形で身を引きます。
事情を知らない勝見との別れも
あっけない幕切れ。
言いようのないやるせなさと
爽やかさを残し、物語は終わります。
何ともドラマチック。
まるで朝の連続ドラマ小説にでも
なりそうな時代背景とストーリー展開。
それが1954年発表の小説で
成し得ているのですから驚きです。
巻末の解説を読むと、本作品、
やはり1955年には
早くも映画化されていました。
それどころかこの由起しげ子、
数作品が映像化されているのです。
こんなすばらしい作品を書く作家が、
忘れ去られている現状は
何かがおかしいと考えます。
何とか再評価が
進まないものでしょうか。
(2020.2.10)