敗者にこそ限りない慈愛のまなざしが注がれている
「平家物語」(角川書店編)
角川ソフィア文庫

中学生の頃、
平家物語が大好きでした。
合戦ものを読むのが
好きだったのです。
子ども向けに書き直された本
(今となってはそれが
どんな本だったかさえ
記憶にない)を読み、
昂奮していました。
源平の合戦は
単なる戦場物語ではありません。
登場人物一人一人が輝く
人間ドラマなのです。
大好きな場面①一ノ谷の合戦:敦盛最後
合戦そのものも
鵯越の坂落としの場面をはじめ、
血湧き肉躍ります。
でも、勝敗が決したあとの
熊谷直実と平敦盛の一幕は
涙を誘います。
敵武将・敦盛は我が子とほぼ同じ年頃。
一度は見逃そうとしたものの、
見方の軍勢が駆けつけた手前、
討たなければならなかった直実。
「あはれ、弓矢取る身ほど
口惜しかりけることはなし。
武芸の家に生まれずば何しに、
ただ今かかる憂き目をば見るべき。
情けなうも討ち奉つたるものかな」。
直実は以降刀を捨て、仏門へ入ります。
大好きな場面②粟津の戦い:義仲の最後
源氏一派として
平家追討に尽力した木曽義仲。
ところが都の治安回復に失敗し、
頼朝から討伐命令が下されます。
軍人として優秀であっても
政治家としては凡才。
最後は主従二騎のみとなります。
「六条河原にて
いかにもなるべかりしかども、
汝と一所で
いかにもならん為にこそ、
多くの敵に後ろを見せて、
これまで遁れたんなれ。
所々で討たれんより、
一所でこそ討ち死にをせめ」。
義仲は平家以上に
「無常観」の漂う悲劇の武将です。
大好きな場面③壇ノ浦:先帝御入水
源平最後の戦い・壇ノ浦では、
平家一門の女性・子どもの多くが
自害しています。
最大の悲劇はまだ8歳(数え年:
実際は6歳4月)の幼帝・安徳天皇が
祖母(清盛の妻)とともに
入水の果てに崩御したことでしょう。
「あの波の下にこそ、
極楽浄土とてめでたき都の候。
それへ具し参らせ候ふぞ」。
戦で犠牲になるのは
いつの時代も弱者なのです。
中国などでは、歴史書は
勝者が自身の正当性を訴えるために
敗者を徹底的に悪賊扱いするのですが、
「平家物語」はそうではありません。
敗れた者にこそ
限りない慈愛のまなざしが
注がれているのです。
八百年の時を超えて語り継がれる理由は
そこにあるのだと思うのです。
例によって
「あらすじ」「現代語訳」「本文」
「解説」「資料」と
至れり尽くせりの入門書です。
これを読んで
平家物語全文読破に挑戦しましょう。
※かつて私は全文へ挑み、挫折しました。
分厚い文庫本2冊のものでしたが、
かなり以前に処分済みです。
活字の大きいものを探して
再挑戦してみたいと思います。
(2020.2.15)
