「源氏物語 夕顔」(紫式部)

嫉妬した女の生き霊が現れるのも当然

「源氏物語 夕顔」(紫式部)
(阿部秋生校訂)小学館

「源氏物語」小学館

源氏は乳母子・惟光の手引きで、
自分の素性を隠して
夕顔のもとへ通うようになった。
ある夜、人目を避けて
廃邸で逢瀬を楽しむ二人の枕元に
女の物の怪が現れ、
源氏に恨み言を
言い残して消える。
そして夕顔は
すでに息絶えていた…。

源氏物語第四帖での大きな事件は、
源氏の逢瀬の相手・夕顔が
亡霊に呪い殺されるというものです。
ただし、亡霊は
源氏の夢枕に立っただけで、
その部分は淡々と描かれています。
「御枕上にいとをかしげなる女ゐて、
 「おのがいとめでたしと

 見たてまつるをば
 尋ね思ほさで、
 かくことなることなき人を
 率ておはして時めかしたまふこそ、
 いとめざましくつらけれ」とて、
 この御かたはらの人を
 かき起こさむとすと見たまふ」

(枕元に美しい女がすわっていて、
 「この私が立派な方と
 心からお慕いしているのに、
 おいでにならず、
 こんなつまらない女を連れて、
 かわいがるなんて。あんまりです。
 恨めしい」と言いながら、夕顔を
 引き起こそうとする夢を見た。)

覚醒している二人の前で
亡霊が姿をあらわにして
危害を加えたのであれば
現代の安っぽいホラー小説と
何ら変わりなくなってしまうのですが、
あくまでも「気配」だけなのです。

おそらく当時であっても
物の怪や亡霊・幽霊は
目に映るものではなかったはずです
(当然ですが)。
しかし電気の光が照らす現代と異なり、
当時の夜の光は星明かりだけでした。
「紙燭」なるものがあったのですが、
それとて必要が
生じたときだけのものです。
つまり平安の夜の闇は
私たちが考える以上に
深かったはずです。
何かの「気配」だけでも
相当大きな恐怖であり、
それを「物の怪」と称しても
不思議ではありません。

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現代の視点では
たいして恐くもない筋書きですが、
もしかしたら平安時代の読み手は、
この帖を読んで
身震いしていたのではないかと
想像できます。

さて、本帖で描かれている女性は、
この一件で落命する夕顔のほかに、
六条御息所もいるのですが、
こちらはなりそめが
どこにも描かれていないばかりか、
源氏の気持ちが冷めてしまった由が
書かれているだけなのです。
そのこともあり、この物の怪の正体は
六条御息所の生き霊であるという解釈が
以前よりなされていますが、
それは誤りなのだそうです。
たしかに、現れたのが
六条御息所の生き霊なら、
顔を見ればすぐわかったはずですから。

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それにしても、空蝉と軒端の荻への
思いの覚めやらぬまま、
すぐさま夕顔に
狂おしいほど心惹かれる光源氏。
恋多き男ですから、
嫉妬した女の生き霊が現れるのも
当然と言えば当然です。

※源氏:17歳
 夕顔:19歳
 六条御息所:24歳

〔前帖〕

〔次帖〕

(2020.2.15)

June11さんによる写真ACからの写真

【源氏物語】
01 桐壺
02 帚木
03 空蝉
04 夕顔
05 若紫
06 末摘花
07 紅葉賀
08 花宴
09
10 賢木
11 花散里
12 須磨
13 明石
14 澪標
15 蓬生
16 関屋
17 絵合
18 松風
19 薄雲
20 朝顔
21 少女
22 玉鬘
23 初音
24 胡蝶
25
26 常夏
27 篝火
28 野分
29 行幸
30 藤袴
31 真木柱
32 梅枝
33 藤裏葉
34 若菜上
35 若菜下
36 柏木
37 横笛
38 鈴虫
39 夕霧
40 御法
41
00 雲隠
42 匂兵部卿
43 紅梅
44 竹河
45 橋姫
46 椎本
47 総角
48 早蕨
49 宿木
50 東屋
51 浮舟
52 蜻蛉
53 手習
54 夢浮橋

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