彼の人生の歯車は、再び停止した
「ダイアモンドのギター」
(カポーティ/村上春樹訳)
(「ティファニーで朝食を」)新潮文庫

模範囚ミスタ・シェーファーは、
殺されて当然の悪人を
殺した罪で99年の刑に服していた。
そこへダイアモンドが
あしらわれたギターをもった
若い新入り・ティコがやってくる。
ティコはシェーファーに
自らが訪れた外国の話をする…。
50歳をすでに超えたシェーファーは、
刑務所内で一目置かれている
人格者です。
服役してすでに17年。
刑期は残り82年もある
(米国の刑法は日本と違い、
全ての罪を加算するため
長期刑となることがある)のですから、
出所はほぼ不可能です。
彼の人生の歯車は
止まったままなのです。
18歳のティコは、
2年間カリブ海を航行する
貨物船で働いていた経歴を
持っていました。
ギターとともに所持していた
世界地図をめくり、
次に行ってみたい場所を
シェーファーに語ります。
自分とはまったく違った若者と
出会ったことから、
シェーファーの止まった歯車は、
再び動き始める兆しを見せるのです。
「ティコ・フェオが
きらめくギターを手に、
夕暮れの中をやってくるのを
目にしたときに、
何かが動き出したのだ。」
ティコに誘われ、
シェーファーは一緒に脱走を図ります。
しかし、彼は倒木に脚を引っかけ、
川の浅瀬に倒れていたところを
発見されるのです。
「一瞬のうちに彼は
すべてを悟ることができた。
ティコには、
シェーファーと運命を
共にしようというつもりなんて
最初からなかったし、
彼がついてこられるとも
思っていなかったのだ。」
50を過ぎた彼には、
18歳の若者のように
明るい未来へ羽ばたくことは
できなかった。
何とも悲しすぎる、
しかし当然の事実が提示されます。
若さを失った人間には
かなわないことがある。
我が身に照らし合わせ、
やりきれなさが込み上げてきます。
シェーファーに残ったものは、
「ティコの脱獄を阻止した」という
偽りの名誉と、
音の合わない(二度と夢を語らない)
ダイヤのギターと、
気の遠くなるような
刑期だけでした。
彼の人生の歯車は、
再び停止したのです。
「夜の樹」では背筋の凍る恐怖感を、
「誕生日の子供たち」では
大きな喪失感を、
そして本作では
言いようのない虚無感を味わい、
三度後味の悪い終結を
見ることになりました。
カポーティ、嫌な作家です。でも、
なぜか引き寄せられてしまいます。
※村上春樹の訳文は、
良し悪しは別として、
なぜか本人が創作した小説のように
感じてしまいます。
作者・カポーティよりも
訳者・村上春樹が
前面に出てしまうのでしょう。
このあたりは好みが分かれそうです。
私は好きですが。
〔本書収録作品〕
ティファニーで朝食を
花盛りの家
ダイアモンドのギター
クリスマスの思い出
(2020.2.21)

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